CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#14
2023年三月の火星観測報告
(λ=031°Ls ~λ=045°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#526 (
♂・・・・・・ 今期十四回目のレポートは、『火星通信』に送られてきた三月中の撮影画像より纏める。火星は三月には、引き続き「おうし座」で順行を続けていたが、下旬には「ふたご座」へ入り、月末には散開星団M35の北を通過した。日没後の西空高くに位置して、没するのはまだ夜半過ぎであった。日本では三月は記録的な暖かさで、ソメイヨシノの開花も各地で最も早くなっている。天気は周期的に変化をして、関東では下旬に南岸に停滞した前線で菜種梅雨となった。
三月には、季節(λ)は北半球の春分過ぎのλ=031°Lsから、045°Lsまで進んだ。視直径(δ)は、δ=8.2”から6.5”にまで減少した。位相角(ι)は月初めの37.0°から、中旬には最大のι=37.4°に達して、月末にはι=36.9°まで戻っている。中央緯度(φ)はφ=04°S台から、月末では02°N台に北向きに変わっている。
(黄色くマークしたところが、2023年3月の範囲)
前回2020年接近時の記事は、以下のリンクから辿れる。
CMO#507
(1 April~30 April 2021 2008, λ=025°~039°Ls, δ=5.3~4.6”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/507/2020repo_18.htm
CMO#508
(1 May~31 May 2021, λ=039°~053°Ls, δ=4.6~4.2”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/508/2020repo_19.htm
一サイクル前の同様の接近だった2007-2008年の接近時の様子(上の図の青い線)を今回の接近と比較すると、当時の視直径(δ)は、まだ10〜8秒角程度あり、下記の記事が参考になる。
CMO#344
(16 Feb~15 Mar 2008, λ=033°~046°Ls, δ=10.4~7.9”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO344.pdf
♂・・・・・・ 三月の火星面の様子
火星は三月16日に「東矩(黄経)」を迎えて日没時には南中しているようになり、観測期も終盤となってきた。「おうし座」西部で赤緯の高いこともあり、北半球では沈むのは夜半過ぎで、まだ観測時間は十分であった。とはいえ視直径も小さくなり観測報告数もだいぶ減ってしまった。
中央緯度がだいぶ北向きになってきたことあり北極冠は北端に明るく認められるようになっている。この期間にも大きな擾乱は見られなかった。
○ 火星面概況
今回は期間を通して画像を送ってくれた、プエルト・リコのモラレス氏の画像を日付順に並べてみた、中旬に少し抜けているところがあるが、ほぼ全面の様子が概観できる。
どの画像にも北縁には北極冠が明るく認められる。マレ・アキダリウムには、北極雲は懸からなくなっている様に思える。アルギュレ(Argyre)の明るさは引き続きつづいている。南半球高緯度にも靄がかかっているようである。ヘッラス(Hellas)は、はっきり輪郭が捉えられていないが、夕方には靄で明るくなるようである。低緯度の朝夕の靄も顕著になっていて、クリュセあたり(Chryse-Xanthe)が夕縁で明るくなっているのが捉えられている。31日にの画像ではエリシウム(Elysium)が大きく朝靄に覆われている。タルシス三山やオリュムプス・モンスの高山も暗斑として認められる様だが、次の概況にゆずる。
位相角が大きく朝のターミネーターが見えるようになってきたこともあり、朝方には高山が暗点に見えるようになっている。先月も取り上げたが、山の影のようである。22日の石橋(Is)氏の画像が典型的で、オリュムプス・モンス(OM)が朝縁近く、画像の中央付近にはタルシス三山が斜めに並んでいる。アルバ・パテラ(Alba)あたりも薄暗い。青色光(B-370)の画像には、アルギュレの明るさと、クリュセあたりの夕靄も捉えられている。
この画像の、オリュムプス・モンスの火星面地方時(MLT)は、07:10 (MLT)。内側のアスクラエウス・モンス(Ascraeus Mons : AS)では、09:16 (MLT)である。また画像中央の北極冠の雪線緯度は68°NとWinJuposの画面から読み取っている。この季節(λ=040°Ls)の標準的な値である。
もう一つ、興味深い画像を取り上げる。フラナガン(WFl)氏の上旬の画像にもタルシス三山やオリュムプス・モンスの様子が捉えられている。他にも青色光画像には赤道付近にやや明るい明帯が感じられる。もう少し季節が進んだλ=060°Ls過ぎから活動が始まる赤道帯霧(ebm)の初期の様子の様である。また、南半球高緯度の夕縁の明るさはアルギュレから続いている靄の明るさであろう。
この画像のオリュムプス・モンスの火星面地方時は、09:13 (MLT)。アスクラエウス・モンスでは、11:09 (MLT)である。また画像中央の北極冠の雪線緯度は67°Nで、こちらは季節(λ=030°Ls)の標準的な値65°Nより少し大きい。
参考となる、07/08 CMO NoteのインデックスページのURLは下記のようになっている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2007NoteIndex.htm
♂・・・・・・ 三月の観測報告
『火星通信』に寄せられた三月の観測報告は、報告者・報告数共に減少している。内訳は、以下の七名からの28観測の報告にとどまった。
日本からの観測は一名から3観測。熊森氏からの報告はベランダ観測の限界になり終了となった。石橋氏は鏡の再メッキという作業が入り、月後半の観測だけとなっている。アメリカ大陸側からは、五名から21観測(コロンビアのトリアーナ氏の追加報告が2観測含まれる)、ヨーロッパ側からは、一名から4観測の報告があった。南半球のフォスター氏からは報告が入らなかった。
それぞれの画像は以下のリストのリンクから辿れる。
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN,
William (WFl) Houston, TX, the
2 Sets of LRGB
Images (6, 28 March 2023) 36m SCT @f/22
with a Saturn-M SQR
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_WFl.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is) Sagamihara,
3 Colour + 3 B Images (22, 30,
31 March 2023) 31cm Newtonian
(F/6.4) with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html
フランク・メリッロ (FMl)
ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
8 Colour Images
(7, 10, 17, 21, 21n*, 26, 30/31 March 2023)
25cm SCT with an ASI 120MC & DMK21AU618.AS*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES
RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla,
9 RGB
images (3, 8, 11, 14, 20, 21, 23, 24, 31 March 2023) 31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA,
Michael (MRs) Friars Hill, WV, the
1 Colour Drawing
(31 March 2023) 35cm SCT, 326×
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MRs.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
4 Colour
+ 4 IR Images (1, 2, 6, 8 March 2023) 53cm Newtonian @f/15 with
an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_JWr.html
追加報告
シャルレス・トリアーナ (CTr)
ボゴタ、コロンビア
TRIANA,
Charles (CTr) Bogota, COLOMBIA
2 LRGB Colour Images
(28 December 2022, 22 January 2023) 25cm SCT @f/27
with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CTr.html
,
♂・・・・・・ 五・六月の観測ポイント
五月には、火星は順行して「ふたご座」から「かに座」へと移動する。視直径(δ)は
δ=5.4”~4.7”と、五月の中旬には5秒角を下回ってしまう。季節はλ=058°~072°Lsと進む。日没時には既に南中を過ぎていて、沈むのは夜半前になる。六月には1日から3日にかけて「かに座」の散開星団プレセペ(M44)の中を通過する。その後は「しし座」へと赤緯を下げてゆく。レグルスとの接近は七月11日のことである。季節はλ=072°~085°Lsと進む。視直径は六月末で、δ=4.2”まで小さくなり今接近の観測期は終わりとなる。
下図には、五・六月中の位相や視直径の変化を図示する。視直径は4秒角台となり、大口径での撮影でも詳細は捉えられなくなるだろう。傾き(φ)は9°N台から20°N台と大きく北を向いてくる。北極冠の縮小を追跡出る季節だが、次回接近の予習となろう。季節(λ)は、六月末にはλ=085°Lsと、北半球の夏至近くまで進む。赤道帯雲の活動が活発になる季節である。
同じような季節の接近だった2007/2008年の、この期間の様子は以下のリンクから参照できる。視直径は今回よりも少し大きい。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO346.pdf CMO
#346 (25 May. 2008), λ=059°Ls ~λ=072°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO347.pdf CMO
#347(25 June 2008), λ=072°Ls ~λ=086°Ls
七月には観測期の終了となり、観測ポイントの取り上げは、今回が最後である。