CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#03

2022年四月の火星観測報告

 (λ=201°Ls ~λ=219°Ls)

村上 昌己・西田 昭徳

CMO #515 (10 May 2022)


・・・・・・ 四月末までの『火星通信』に寄せられた画像をもとに、今期三回目のレポートを纏める。今月も報告はフォスター(CFs)氏中心だったが、森田(Mo)氏からの報告が入り始めた。

 

この期間の火星は朝空の「やぎ座」から「みずがめ座」へ順行を続けた。視赤緯は10°Sを越えて、太陽との離角も大きくなり、日の出時の高度も上がってきたが、視直径の増加はゆっくりで、四月末でも十分な大きさになっていない。図のように火星と土星は四月4日に近接した接近となった。この期間は朝方の空で明るい惑星が一列に並んで下旬には木星も加わって壮観であった。北半球では横一列の並びだったが、南半球では黄道が立っていて、縦一列の並びになっていたという。四月中に木星と金星は海王星を追い越して、図のように月末(UTC)にはかなり接近した。

 


 

この期間に火星は、視直径(δ) δ=5.2”5.8”に少し大きくなった。中央緯度の傾き(φ)21°Sから25°Sに大きく南に傾いて南極冠がこちらを向いて、融解が進んでいる極冠内部の様子が判るようになってきた。位相角(ι)33°から38°に増加して、夕方側の欠け大きく、午後の火星面が大きくなっている。季節(λ) は、λ=201°Lsから219°Lsまで進んで、黄雲発生の季節は引き続き続いている。北半球起源のダスト活動にも注意が必要であった。

 

同じような季節の前回2020年接近時の様子は、以下のURLから参照できる。右図の様に視直径は二倍程度大きかった。

(黄色くマークしたところが、20224月の範囲)

CMO #494 (10 June 2020)  λ=193°~211°Ls

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/494/2020repo_05.htm

CMO #495 (10 July 2020)  λ=211°~230°Ls

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/495/2020repo_06.htm 

 

 

・・・・・・ 四月の火星面の様子

フォスター氏から報告された画像から、火星面の様子を日付・中央経度順に並べた画像をご覧いただく。 四月には、Solis L (ソリス・ラクス)の見えているところから、M.Sirenum (マレ・シレナム)が中央まで、ほぼ一廻りが捉えられている。朝縁の不自然さがまだ残っている画像が多いのは残念であるが、連日のルーチン観測に敬意を表したい。

南極冠に関しては後述する。月初めには夕縁に夕靄の明るさが淡く捉えられている。B光画像ではハッキリする。M Acidalium (マレ・アギダリウム) Chryse-Xanthe (クリュセ・クサンテ) あたりの画像の少ないのは天候のようで観測が跳んでいる。経度的な欠落もあるが、タルシス方面の午後の山岳雲の活動などは捉えられていない。中旬には、S Meridiani (シヌス・メリディアニ) から、Hellas (ヘッラス)Syrtis Mj (シュルチス・マイヨル) にかけては、連日の撮影で上手に追跡されている。月末にはM.Cimmerium (マレ・キムメリウム) から、M.Sirenum までが、画像に入ってきている。主な暗色模様は捉えられていて、大きな擾乱の発生はなかったようである。

 


 

12, 13 April の画像には、Aram(アラム) Chryse (クリュセ) に明るさが感じられる。これは、右図に示したように前回接近の同じ季節の熊森(Km)氏の画像にも認められている。

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/200523/Km23May20.png

関連する記事は、上記の「2020年五月の火星観測報告」(λ=193°Ls ~λ=211°Ls) に、掲載されている。

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/494/2020repo_05.htm

 

 

次には以前に示した、南極冠域の図を掲げて、南極冠内部の暗色模様と周縁部の明部の様子を見てみようと思う。この期間の南極冠の雪線緯度は65°S付近にあると考えられる。

 

月初めの画像には、極冠周辺部の火星面経度 (Ω)=100°~120°W付近に明るい部分が感じられる。

Solis L が見えている画像での南極冠内部の暗帯は、Rima Angusta (リマ・アングスタ) であろう。次に、S Meridiani の見えている画像の、Ω=010°~030°Wの極冠周辺部の輝部は、M Argenteus (モンス・アルゲンテウス) として目立ってくるところである。それに続いてHellasの南の、Ω=300°~330°Wあたりの明部は、Novus M (ノウォス・モンス) として分離してくるところである。内部の暗帯は、Rima Australis (リマ・アウストラリス) が、Depressio Magna (デプレッシォ・マグナ) を含んで濃く写されている。月末なっての画像で南極冠の中の濃い暗部は、Depressio Parva (デプレッシォ・パルバ) と思われる。今月の画像には、Thyles M (チュレス・モンス, Ω=150°W) は、はっきり捉えられていない。

 

・・・・・・ 四月の観測報告

  観測報告は、フォスター氏からは17観測(IR画像を含む)であった。森田氏は一月から撮影を始めたとのことだが、観測条件はなかなか良くならず、四月の末になって報告できる画像が得られるようになってきたという。画像はリストのリンクから辿れる。

 

  クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリ

   FOSTER, Clyde (CFs) Centurion, SOUTH AFRICA

      16 Sets of RGB + 16 IR Images  (1, 2, 5, 7, 12~15, 18~22, 29, 30 April 2022)

                                          36cm SCT with an ASI 290MM

          https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CFs.html

 

  森田 行雄 (Mo)  廿日市市、広島県

   MORITA, Yukio (Mo) Hatsuka-ichi, Hiroshima, JAPAN

      1 Sets of LRGB Images  (27 April 2022)  36cm SCT with an ASI 290MM

         https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Mo.html

 

・・・・・・ 六月の観測ポイント

 六月には、火星は「うお座」へはいり、「くじら座」の一部を通過するが、先月末に追い抜いた木星と離れて順行を続けて赤緯を上げて行く。季節(λ)λ=238°~257°Lsと動き、黄雲の発生期が継続している。視直径はまだ小さいが、欠けが大きく火星面の午前側の見え方が少ないこともあり、火星面の午後の様子から夕縁までを深く観測できる期間になる。

 


 

下旬になると視直径は7秒角に達する。出も早くなり、日の出時には南東の空に昇っているようになる。λ=240°Lsを過ぎると南極冠の融解が偏芯を始める時期に当たる。下図には、雪線(Snow Line)の平均的な緯度を記入しているが、偏芯の様子は描写していないことをお断りする。視直径がまだ小さく、傾きφ (中央緯度) は少しずつ北向きになるが南極冠の様子は捉えられることと思える。

 


 

 参考として、

南極冠は何時偏芯するか [2001年の火星 (7) ]     CMO #240 (25 February 2001 )

   http://www.mars.dti.ne.jp/~cmo/coming2001/0107/07j.html

 

經緯度圖で南極冠の偏芯を見る “Forthcoming 2005 Mars (11)”  CMO #307

  http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_11.htm

 

を取り上げておく。後者の中からλ=250°Lsの図を引用して、融解と偏芯の進んだ様子を示す。

 


 

中央のω=210°W方向から見た南極冠が早く融解が進む方向になり、南極冠が薄平たく見えるようになる。周縁部には、幾つかのMonsが輝点としてはっきりしてくる。Mons Argenteusは南極冠が最後まで融け残る方向(ω=030°W)に当たる。Novus Monsが、λ=250°Lsころにミッチェル山として南極冠から分離してくる箇所である。

 

  視直径が少し大きい前接近の同時期の様子は、以下のリンクから参照できる。

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/496/2020repo_07.htm CMO #496 (10 August 2020)

 


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