CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#15

2025年五月の火星観測報告

 (λ=077°Ls ~ λ=091°Ls)

村上 昌己・西田 昭徳

CMO #547 (10 June 2025)


・・・・・・今期十五回目のレポートは、『火星通信』に送られてきた五月中の火星面画像をもとに記述する。下図のように、火星は五月には「かに座」で順行を続けて下旬には「しし座」へと入った。日没時には南の空から南西の空に移動して、没するのも夜半前となり、観測期の終盤を感じさせるようになった。光度もプラス一等級になり目立たなくなってしまった。

 


 

五月には季節(λ)λ=077°Lsから091°Lsまで進み。北半球の夏至(λ=090°Ls)を通過した。視直径)δ=6.6”から、月末にはδ=5.5”まで小さくなった。傾き(φ)はさら大きくなり、16°Nから21°Nにまで増加して、縮小していく北極冠の観測ができた。位相角(ι)は、ι=37°からι=35°と、朝方の南半球の欠けは少し戻った。

右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。傾き・中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。黄色くマークされているところが、五月のレポート期間の様子を示している。

 

 

前回接近時の火星面の様子は以下のリンクから参照できる。

CMO#529 (01 June ~ 30 June 2023, λ=072~085°Ls, δ=4.7~4.2”)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/529/2022repo_17.htm

CMO#530 (01 July ~ 31 July 2023, λ=085~098°Ls, δ=4.2~3.9”)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/530/2022repo_18.htm

 

2010年の接近時には、もう少し大きな視直径の時の観測記録が、以下のリンクで閲覧できる。

CMO#372 (16 Apr~15 May 2010, λ=078~091°Ls, δ=8.2~6.6”)

    https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn5/CMO372.pdf

 

2012年の小接近時にも、最接近時の視直径の大きな時の記事があり、以下のリンクから辿れる。

CMO#396 (1 March~15 March 2012, λ=077°~084°Ls, δ=13.9~13.7”)

   https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/396_Repo08.htm

CMO#397 (16 March~31 March 2012, λ=084°~091°Ls, δ=13.7~12.6”)

   https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/397_Repo09.htm

 三月後半の記事には、アメリカ側から観測された、火星面明け方の欠け際からの明るい突出現象の記事も見られる。

 

 

♂・・・・・・ 2025年五月の火星面の様子

○ 火星面概況

火星は、五月には季節(λ)λ=077°Lsから091sまで進み、北半球の夏至(λ=090°Ls)を通過した。視直径(δ)は月初めの6秒角台から、月末には5秒角台まで小さくなった。位相角(ι)は今期最大の37度台から少し戻ったが、朝方の南半球の欠けは大きい。この期間には赤道帯霧の活動が活発になることや、ヘッラスの明るさが目立ってくるようになることが知られている。傾き(φ)はさらに北向きに大きくなって、φ=15°Nから月末にはφ=21°Nに達した。縮小がすんだ北極冠が小さく見えていて、永久北極冠と周囲の様子が垣間見られた。午後の山岳雲の活動は、午後の遅い火星面が見え難くなり、とらえられた画像は少なくなっている。

 

○ この期間の北極冠の様子

今月は報告画像数も少なく、視直径の小さくなったこともあり良像は得られなかった。極展開図を代表的なものから作って、元画像を下に添えてある。画像処理に因って描写が異なるが、雪線緯度は80Nに達しているようである。26Mayの画像で、北極冠に接して濃く見えている領域は、ヒュペルボレウス・ラクス(Hyperboreus Lacs) である。

 


 

○ ヘッラスの様子 

ヘッラスはλ=090°Ls (南半球の冬至) 頃には、降霜で明るくなるのが知られている。直前の様子を並べてみた。上旬から下旬まで、夕方から朝方の様子を並べたかったが画像が揃わなかった。

夕方のヘッラスが明るくなっているのは先月から捉えられていたが、正午ころにも五月初めからかなりの明るさが認められる。朝方から午前にかけては活動は弱く、B光での明るさもあまり感じられない。下旬になっても同様であった。朝方早くは大きく欠けの中に入っていることもあるのかもしれない。これらのB光画像には、シュルティス・マイヨルを挟んで拡がる赤道帯霧がとらえられている。

 


 

○ 赤道帯霧 (ebm: Equatorial Band Mist)

赤道帯霧の活動のピークは、五月末の北半球の夏至 (λ=090°Ls) 頃であった。赤道帯霧の様子を 日付順に並べてみた。上段のウイルソン(TWl)氏・阿久津(Ak)氏は、クリュセからタルシスが見えている経度、フォスター(CFs)氏とメリッロ(FMl)氏の画像は、エリシウムからシュルティス・マイヨルあたりの様子である。シュルティス・マイヨルをはさんでの様子は上のヘッラスの画像にある。下段には、下旬のフォスター(CFs)氏の連日の観測からタルシス三山の朝靄の中での山頂の飛び出しの様子を並べてある。上段の阿久津氏の画像にも、暗点が捉えられている。中央近くのものは、タルシス三山でいちばん北の、アスクラエウス・モンス(Ascraeus Mons)のものである。 

 


 

○ 夕方の山岳雲の活動

午後の火星面の山岳雲の活動の様子を示す画像を取り上げた。下図の上段は、タルシス三山とオリュムプス・モンス付近の高山の含まれる領域、下段には、エリュシウム・モンスの午後の山岳雲の様子を示した。視直径が小さくなり、位相角が大きく夕方のターミネーターの見えない状況であり、詳しく捉えられた画像は少なかった。

オリュムプス・モンスは、まだ活動的なようである。タルシス三山の夕縁での様子は、捉えられた画像がなかった。エリュシウム・モンスの活動は弱くなっているようである。

 


 

 

○ トピックス

ここでは、ピ−チ(DPc)氏からの一月から四月までの追加報告より、興味ある画像を紹介する。

 

北極冠内部でのダスト活動?

この画像では、北極冠の中央にダスト色の帯がみえている。極展開画像も作ってみた。雪線は左側では張り出していて、間には弱い暗線が写っている。右側はイエルネ(Ierne)あたりに相当する。

展開図は、元画像にあわせるために回転させてある。

 

 

オリュムピア?

少し季節が進んだ四月に入ってからの北極冠域の画像も取り上げる。北極冠は縮小が進んでいる。右側に飛び出しが見えるが、この部分がオリュムピア(Olympia)であると思われる。夕縁の白斑は、上の緯度の低い方がオリュムプス・モンスの夕雲、高緯度側はアルバ・パテラの東側に当たる。

 

 

赤道帯霧

この画像には、夕縁のエリシウム・モンスからシュルティス・マイヨルを横切って朝縁にのびている明るさが見えている。

同様の明るさは、今回取り上げた山岳雲の活動の画像にも表れている。

 

 

 

 

 

 

マルガリティフェル・シヌス(Margaritifer S)あたりの前回接近時との比較

マルガリティフェル・シヌス付近は、2018年のダストイベントの結果、大きく変化してしまったが、少しずつ戻っている。今年の様子を前接近期の画像と並べてみた。ヒダスペス(Hydaspes)はまだ濃く見えていて。大きな変化はないように思える。

 

 

 

 

 

♂・・・・・・ 2025年五月の観測報告

五月には四月より報告者は減って、報告数も少なくなった。日本からは石橋氏より2観測。フィリッピンの阿久津氏の20観測。アメリカ側からは3名より10測。ヨーロッパ側からは3名より41観測 (うち40観測は追加報告)。アフリカのフォスター氏からの23観測で、合計では9名から96観測であった。五月の観測報告は7名からの56観測にとどまった。

追加報告は、先月お伝えしたピーチ氏(DPc)2025年になってからの観測画像が、六月になって『火星通信』宛に送られてきたものである。カルダルス(MKd)氏からも、追加の四月分観測報告が9観測があり、追加報告が40観測に達している。

 

  阿久津 富夫 (Ak)  セブ、フィリピン

   AKUTSU, Tomio  (Ak)  Cebu island, The PHILIPPINES

      20 Colour + 6 B# + 6 IR# Images  (1, 4, 8, 9. 12,~14, 16, 21, 26, 28 May 2025)  11 days

          36cm SCT with an ASI224MC & with a Mars-M#

     https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html

 

  クライド・フォスター (CFs)  ホマス、ナミビア

   FOSTER, Clyde (CFs) Khomas, NAMIBIA

    12 Sets of RGB + 13 R610LP Images  (4, 7~10. 13~15, 20, 24, 26~28 May 2025)  13 days

                                    36cm SCT with an ASI 290MM

     https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html

 

   石橋  (Is) 相模原市、神奈川県

   ISHIBASHI, Tsutomu (Is)  Sagamihara, Kanagawa, JAPAN

      2 Colour + 2 B Images (14, 22 May 2025)   31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI 462MC

    https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Is.html

 

   マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国

   LEWIS, Martin (MLw) St. Albans, Hertfordshire, the UK

      1 Colour Image (22 May 2025)  45cm Dobsonian, with an Uranus-C 

    https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MLw.html

 

   フランク・メリッ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国

   MELILLO, Frank J (FMl)  Holtsville, NY, the USA

      2 Colour* + 3 Sets of RGB Colour* Images (11#*, 18*, 20, 25, 31 May 2025)  

                    25cm SCT & 20cm SCT# with an ASI 290MM & an ASI 290MC*

    https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html

 

   エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ 

   MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla, PUERTO RICO

      1 RGB Colour image (5 May 2025)  31cm SCT with an ASI 290MM

    https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_EMr.html

 

   ティム・ウイルソ (TWl)  モンタナ、アメリカ合衆国

   WILSON, Tim (TWl)  Jefferson City, MO, the USA

      4 Sets of RGB + 4 IR Images (2, 6, 14 May 2025)    28cm SCT with an ASI 678MM

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html

 

追加報告

    デミアン・ピーチ (DPc)  ウエスト・サセックス、英國

   PEACH, Damian A (DPc)  Selsey, WS, the UK    36cm SCT with an Uranus-C

      6 Colour Images (11, 13, 15, 20, 22, 25 January 2025)

     10 Colour Images (3, 4, 17, 18, 22, 24^27 February 2025) 

      9 Colour Images (1, 2, 4, 15, 16 18. 24, 26, 31 March 2025)

      6 Colour Images (1, 5, 6, 10, 11, 17 April 2025)

    https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_DPc.html

 

    マノス・カルダシ (MKd)   アテネ、ギリシャ

   KARDASIS, Manos (MKd)  Glyfada-Athens, GREECE

      9 Colour images (2, 3 , 5, 15,16, 18, 20, 24, 25 April 2025)    36cm SCT with an Uranus-C,

   https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MKd.html

 

 

 

♂・・・・・・ 2025年六月・七月の火星面と観測の目安  (再掲)

 火星は「しし座」で順行を続け、六月中旬には17日にレグルスの北を通過してゆく。視直径は六月1日の5.5秒角から、七月1日には4.9秒角、「おとめ座」に入って八月1日には4.4秒角まで小さくなって、赤緯も八月10日には南に移り今観測期も終了時期を迎える。傾きは北向きに25°Nほどまで大きくなり、北極冠を含めて北極域が最後まで観測できるであろう。視直径が4.0秒角を切るのは九月中旬のこととなる。

 


 

六月には、季節(λ)は、λ= 091°Ls104°Lsまで進み、北半球の「夏至」過ぎの火星面を眺めることとなる。傾き:中央緯度)は北向きに大きくなり、φ=21°Nから24°N台へ、位相角(ι)は、ι=35°台から減少して、ι=32°ほどに戻ってゆく。朝方の欠けは少しづつ小さくなって行く。七月には、季節(λ)は、λ= 104°Ls119°Lsまで移る。傾きは七月末にはφ=26°Nの最大まで傾く。位相角(ι)は、ι=32°ほどからι=28°ほどになる。

視直径は小さくなり観測は厳しくなるが、北極冠周辺のサイクロンの発生時期となってくる(λ= 120°Ls)、南半球への水蒸気の循環も進んで、ヘッラスの振る舞い、南極雲の様子などにも興味が出るが、傾きの北側に大きな期間で詳しい観測は難しい。

 

六月・七月中の火星面の様子を、いつものグリッド図で示した。ピンク色にしてあるところが欠けている部分である。

P は、モータードライブを止めたときに火星が移動して行く方向で、南極を正確に上に向けるときに重要な値(北極方向角)で暦表ではΠで示している。北極冠の雪線の予想は図には反映されていないが、SnowLineの数値で示した。この季節になると、解け残る永久北極冠の緯度となり変化は少なくなっている。

 


 

今期の観測とも重なるが、次回接近期にも北半球の春分(λ=000°Ls)過ぎの観測となる。一サイクル前の観測期にまとめた下記の論考を参考にされたい。

2011/2012年の火星(そのII)  CMO/ISMO #395 (25 March 2012)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/395_MNN.htm

 


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