アンタレス研究所・訪問

 

§12:神山純一の獅子座いま誰かが獅子座をテーマにした音楽を創ろうとするなら、1833年の獅子座流星群が戯曲その他を生んだように、19日黎明の獅子座流星群の大ページェントが啓示となるかもしれない。●その夜繰り広げられた六時間に亙る流星の乱舞は、獅子の駆け上がってくる頃の東天に飛び始める流星の序奏から、明けの明星が輝く薄明の空に消えゆく流星を終曲とする交響詩となるに相応しい。 

●獅子座の曲といえば、神山純一の「エトワール(星座シリーズ)」を思い起こす。星座を作る星の位置をそのまま五線譜に載せて作曲されたメインテーマから始まり、そこから自由に獅子座のイメージを拡げた曲想は繊細で優しい。ただ、天空を切り裂く勢いを持つ力強い獅子座流星の飛ぶ印象は窺えない。●静かな獅子の星座から雨のように星の降ることを正確に稠密な力学を駆使して証明したD.ASHER博士の予言は見事で素晴らしかった。普天の下衆星東より西へ流る、走散して間なし、形刀剣の如し(『扶桑略記』)だったという967(康保四年)の流星雨も最早彼の力学の範疇に入るわけだろう。●星の並びの偶然性がフレーズを生む神山純一の小曲は皆それぞれに個性的で、その星座の雰囲気を醸し出している豊かな調べであるが、獅子の大鎌を広く輻射点に、三十数年を隔てて全天四方に乱れ迸る流星雨を神山が想うとしたらいったいどんな曲が湧き出るだろうか。 

●数々の神山純一作品の星座の中で私のお気に入りの一つはオリオン座である。オリオンは凍った冬の空に端正な姿で堂々と輝く華やかな印象のある星座だが、この曲からはむしろそこはかとない哀愁を感じ、何故か遠い昔の出来事を髣髴と思い起こさせる。このオリオン座を横切り駆け抜けた流星の数はいくつあっただろうか。三ッ星の間を間断なく長く明るい流星が突き抜けていく光景は心を揺り動かされるものであった。(写真は19日未明、那須にて筆者撮影。) ●ロマン・ロランが「十一月という天の花火師が手にいっぱい金の穀粒を掴んで夜のなかへ投げ入れる」(草下英明『星座手帖』の訳)と戯曲で描いたレオニーヅは、いま時を越えて予測できる新たな交響曲となったのである。 

(Ts)

・・・・『火星通信#253 (25 November 2001) p3177


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