SDSS J1004+4112

SDSS J1004+4112 クエーサー

SDSS J1004+4112
図1:TriCCSで撮影した SDSS J1004+4112 (トップ画像中央付近の切り出し)と、KOOLS-IFUで撮影した焦点面画像(左下)

SDSS J1004+4112は、約100億光年(赤方偏移1.73)の距離にあるクエーサーです。 図1には、ほぼ上下に近接した(約4秒角離れた)AとBの二つの青い点状の天体が見られます。

KOOLS-IFU による分光観測

図2は天体Aと天体Bのスペクトルをそれぞれ示しています。 このスペクトルは KOOLS-IFU という、光ファイバーを束ねた分光装置で撮ったものです。 KOOLS-IFUは、110本の光ファイバーを束ねた観測装置で、それを望遠鏡の焦点面に設置してあります。 図1左下の六角形が並んだ図は、その焦点面を表しています。 視野は約8秒角x8秒角で、六角形のひとつひとつが一本の光ファイバーに対応しています。 この光ファイバーの束の上に天体像が結像されています。 明るい(白っぽく表示)部分が2つ見えますが、これらが図1で見えている近接した二つのクエーサーAとBです。 光ファイバーの反対側(出口側)は、ファイバーが一列に並んでいてスリットを形成しており、ここから光が分光器内に導かれます。 このように天体のスペクトルを2次元的に一度に撮ることができるのがKOOLS-IFUの特長になっています。 このような観測を面分光と言います。

SDSS J1004+4112のスペクトル
図2:SDSS J1004+4112 のスペクトル。光を波長(色)ごとに分けて波長ごとの光の強度を示したものをスペクトルと呼ぶ。
(a)は波長ごとに分けた画像、(b)はクエーサーB、(c)はクエーサーAの波長ごとに明るさを縦軸にとったグラフ。

双子のクエーサーか?

図2にはクエーサーAとクエーサーBのスペクトルが示されています。 ノイズのせいで少し違って見えますが、どちらもほぼ同じスペクトルです。 左側の420nm付近に見られる輝線はC IV(3階電離した炭素)が出す輝線で、もとの波長は154.9nmです。 その少し右側の520nm付近に見える輝線はC III(2階電離した炭素)の190.8nmの輝線です。 これらの輝線の観測波長を正確に測定して両方の天体の赤方偏移を求めると、共に1.73となり、同じ距離に存在する天体ということになります※1。 これは一体どういうことでしょうか?双子のクエーサーでしょうか? そうではなく、この二つは同じ天体であり、重力レンズ効果によって同じクエーサーが二つに見えているのです。

※1 宇宙膨張のため、宇宙論的距離にある天体から放たれた光は観測者には波長が伸びて観測されます。 つまり、赤い波長に偏移して見えます。 どの位波長が長くなったかを表す量が赤方偏移で、赤方偏移=(観測波長ー元の波長) / (元の波長)で定義されます。 赤方偏移は、天体までの距離に対応しているので、赤方偏移が同じなら同じ距離にあることになります。

銀河団による重力レンズ効果

本ギャラリーの QSO B1422+231 クエーサー も重力レンズ効果を受けたクエーサーです。 (但し、分離の角度は小さく、せいめい望遠鏡では二つには見えていません。) また、本ギャラリーの SDSS J114833.14+193003.2 重力レンズ天体 (コズミック・ホースシュー) も重力レンズ効果を受けた銀河です。 この二つの重力レンズでレンズに対応する天体は、重い銀河です。

一方、このSDSS J1004+4112のレンズ天体は銀河ではなく、銀河団です。 銀河団は銀河の大集団で大きな質量を擁するため、重力レンズ効果を起こします。 SDSS J1004+4112のケースでは、約60億光年(赤方偏移0.68)の距離にある重い銀河団がレンズの役割を果たしています。 このような銀河団による重力レンズの場合、像の分離の角度は一般に大きくなります。 図1を見ると上述の青い2点源の他にCとDの青い点源が見えています。これらも同じクエーサーが重力レンズ効果を受けたものです。 また、これら4つのクエーサー像に取り囲まれるように赤くひろがった天体が見えていますが、これはレンズになっている銀河団に所属する明るく大きな銀河です。 これより暗い銀河も多数存在しているのですが、残念ながらこの写真ではあまりよく見えていません。 よく見ると、この赤い銀河のまわりに、赤い淡いしみのようにわずかに見えている天体がありますが、これらも銀河団の銀河です。 実は、この明るく赤い銀河に重なるような位置に、5番目のクエーサー像があるのですが、その分離は地上観測では難しく、この画像でもわかりません。 これらのクエーサー像の位置などから、銀河団の質量の大部分を占めるダークマターの分布の仕方についての情報を得ることができ、ダークマターの研究に役立っています。

トップ画像
2024年3月27日 20時31分(JST)
観測装置:TriCCS
露光時間:g, r, i各バンド 960秒
写野:12.6x7.5arcmin
Ⓒ 京都大学岡山天文台/ 東京大学
高解像度版(2160x1280pix, 1.2MB)

スペクトル
2025年4月29日 19時53分(JST)
観測装置:KOOLS-IFU
露光時間:VPH-blue 5400秒
Ⓒ 京都大学岡山天文台