Kwasan and Hida Observatories, Graduate School of Schience, Kyoto University English Home page

第24太陽活動周期始まる (Q&A)


Q: 黒点なのに、この写真では光っているのは不思議
A: この写真は、H-alpha線という特殊な光で観測したものであり、 太陽の彩層(光球の上層大気)を主に見ています。 そのため、この写真では黒点の暗い部分よりも、むしろ 黒点活動にともなうエネルギー解放によって 光っている部分がおもに見えています。

Q: 黒点が少なくなると寒冷化すると言われるが、黒点は暗いので、 黒点が多くなる方が太陽が暗くなって寒冷化するのではないのか?
A: もっともな疑問ですが、精密な人工衛星観測によると、 黒点がたくさん出ると黒点の周りがわずかに明るくなって、 太陽全体ではむしろ明るくなることが知られています。 この原因については、黒点にともなう活動のせいなのか、 もっと根源的な理由があるのか、まだ全くの謎です。 それどころか、そもそも黒点がどうしてできるかも まだ完全にはわかっていません。 身近な太陽ですが、まだまだ謎がいっぱいあります。

参考文献:
柴田一成、「光と物理学」(嶺重慎ほか編、京都大学学術出版会、2007年)、 第7章、太陽プラズマ現象
柴田一成、大山真満、「写真集 太陽」(裳華房、2004年)


地球の気候に対する太陽の影響についての疑問
(少し難しい現在も研究・議論中の話題)
Q: 黒点にともなう活動のせいで地球気候に影響があると、 考えられるのは、なぜでしょうか?
A: 黒点がたくさん出ると、紫外線が強く出ます。 紫外線が強くなると、地球中層大気(成層圏、中間圏: およそ10km〜90km)が加熱されて大きな影響が出ます。 オゾン層があるのはこの成層圏です。 紫外線によって大きな影響を受けた中層大気は、我々の 住む下層大気にわずかながら影響を及ぼします。 この効果が重要かもしれないと考えられているのです。 ただし、これは短期的には微々たるものです。 11年〜数10年など長期にわたって、はじめて累積効果により 重要になるかもしれない、というほど微小な効果です。 この研究は微小な変動を扱うものなので、 容易ではなく、多くの研究者が研究を続けている ところですが、まだ、確かな結論は出ていない、 というのが現状です。

Q: 黒点数が減ると地球全体の雲の量が増えると聞きました。 これはどんな話なのですか?
A: そうです、10年ほど前に、おもしろい観測が報告されました。 黒点数と地球全体の雲量が逆相関となっているという観測です ( H.Svensmark & E.Friis-Christensen 1997 )。 つまり、黒点数が減ると、雲量が増える、というのです。 人工衛星で地球全体の雲量が測れるようになってきて 判明したものです。雲量が増えれば、太陽光がより多く反射 されるので、地表に届く太陽エネルギーが減ります。 これが黒点が減ったときの地球寒冷化の原因かもしれませんね。 ただし、この観測には色々疑問が提出されていて、 まだ確立したわけではありません。

Q: どうして黒点数が減ると雲量が増えるのでしょう?
A: これには宇宙線が関係していると考えられています。 黒点数が減ると、惑星間空間中の磁場が弱くなります。 すると、銀河から地球に届く宇宙線の量が増えます。 (宇宙線は電気を帯びているので、惑星間磁場の強弱によって 太陽系への宇宙線の侵入量が変動します。) 宇宙線が地球の大気に衝突すると、高層大気中の 雲の核となるイオンの形成を促し(霧箱の原理)、 そのために雲ができやすくなる、というわけです。 たいへんおもしろいアイデアですが、 「宇宙線のエネルギーの総量は微々たるものなので、宇宙線が 地球全体の雲の形成に影響しているとは信じられない」 、「そもそも、雲量と黒点数の相関の観測は確かなのか?」 、「最近の10年くらいの観測では、信用できない」、 という人も多数いて、この問題は、現在、世界の 学会でもっともホットな論争中の話題となっています。

参考文献:
K.S.Carslaw, R.G.Harrison, J.Kirkby, SCIENCE, 298, 1732 (2002)
D.Rind, SCIENCE, 296, 673 (2002)
H.Svensmark, E.Friis-Christensen, J. Atmos. Solar Terr. Phys. 59, 1225 (1997)

解説へ戻る