CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#15
2023年四月の火星観測報告
(λ=045°Ls ~λ=058°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#527 (
♂・・・・・・ 『火星通信』に送られてきた四月中の撮影画像より今期十五回目のレポートを作成する。火星は四月には、「ふたご座」を順行して日没後の西空に位置して、月末でも日没時の高度は60°ほどと高く、没するのはまだ夜半ころであった。とはいえ、光度は+1等級となり目立たなくなってきた。視直径も小さくなり、観測の末期を迎えている。
季節(λ)はλ=045°Lsから058°Lsまで進んで、北半球高緯度の現象や赤道帯霧などに興味の湧く季節となったが、視直径(δ)は、δ=6.5”から5.4”にまで減少して、詳しい様子は捉えられなくなっていた。位相角(ι)は月初めの36.9°から、月末にはι=34.4°まで戻って欠けは少し小さくなっている。中央緯度(φ)は02°N台から、月末では09°N台に北向きに大きくなっている。
(黄色くマークしたところが、2023年4月の範囲)
前回2020年接近時の記事は、以下のリンクから辿れる。
CMO#508
(1 May~31 May 2021, λ=039°~053°Ls, δ=4.6~4.2”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/508/2020repo_19.htm
CMO#509
(1 June~30 June 2021, λ=053°~066°Ls, δ=4.2~3.9”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/507/2020repo_18.htm
一サイクル前の同様の接近だった2007-2008年の接近時の様子(上の図の青い線)を今回の接近と比較すると、当時の視直径(δ)は、8〜6秒角程度と小さくなっているが、下記の記事が参考になる。
CMO#345
(16 Mar~15 Apr 2008, λ=045°~058°Ls, δ=7.9~6.3”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO345.pdf
2010年の接近時には、もう少し大きな視直径の時の観測記録が、以下のリンクで閲覧できる。
CMO#369
(1 Feb~15 Feb 2010, λ=046°~052Ls, δ=14.1~13.3”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn5/CMO369.pdf
CMO#370
(16 Feb~15 Mar 2010, λ=052°~065Ls, δ=13.3~10.7”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn5/CMO370.pdf
♂・・・・・・ 四月の火星面の様子
○ 火星面概況
今回は期間を通して画像を送ってくれた、メリッロ(FMl)氏の画像を日付順に並べてみた、前月末から五月初めまでの画像で小さな像だが、ほぼ全面の様子が概観できる。
どの画像にも北縁には北極冠が明るく認められる。像は小さく詳細は捉えられないが、11, 14 Aprilの画像には、朝方のタルシス三山やオリュムプス・モンスの影の暗点が認められる。
○ 興味深い画像
赤道帯霧(ebm)の捉えられている画像が、モラレス(EMr)氏から寄せられた。RGB単色画像も表示されていて、夕縁からクリュセを抜けてタルシスに達する明るさが判る。朝縁北半球に拡がる朝靄や、夕縁南半球高緯度の夕靄も捉えられている。赤道帯霧は、λ=060°Ls過ぎから活動が本格的になる。
次は、カルダシス(MKd)氏により撮影された、ウトピア(Utopia )北部に東西に拡がる明帯を取り上げる。
他に比較できる画像がなく、発生がいつからなのかは不明だが、18 April の画像ではウトビアの頭が切れているのが認められる。西に拡がりボレオシュルティス(BoreoSyrtis)の北側に延びている。明帯は、23 April の画像では東にも延びていて、北極冠周辺に起きた擾乱のように思える。同じ季節の2010年のゴルチンスキー(PGc)氏の画像を比較のために引用している。画像的にはアエテリア(Aetheria)の暗斑の濃いのが最近と異なるところである。
2010年の接近時にはもう少し早い時期(λ=001°Ls)に右図のように同様の現象があり、以下の論攷に記述がある。
CMO
2009/2010 Mars Note (7) CMO#379 (25
December 2010)
「春分後ウトピア邊りはどの様に變化したか」
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/379/2009_2010Note(7).htm
ヘッラス(Hellas)の朝夕の様子も眺めてみる。ヘッラスが降霜で白く明るくなるのは南半球の冬至(λ=090°Ls)近くなってからのことである。この期間では朝方は明るさは目立たないが、夕方には夕靄が懸かって薄明るくなっている。
参考となる、07/08 CMO NoteやCMO 2009/2010 Mars NoteのインデックスページのURLは下記のようになっている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2007NoteIndex.htm
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2010NoteIndex.htm
♂・・・・・・ 四月の観測報告
『火星通信』に寄せられた四月の観測報告は、追加報告を含めるが報告者・報告数共に少し増えている。気候も良くなり夕刻の観測が楽にできるようになった事もあると思われる。内訳は、以下の九名からの40観測の報告であった。
日本からの観測は石橋氏の3観測だけとなった。セブの阿久津氏からは追加報告が5観測送られてきている。アメリカ大陸側からは、四名から15観測 (コロンビアのトリアーナ氏の追加報告が3観測含まれる)、ヨーロッパ側からは、三名から17観測の報告(ギリシャのカルダシス氏の追加報告が3観測含まれる)があった。南半球からは報告が入らなかった。
それぞれの画像は以下のリストのリンクから辿れる。
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is) Sagamihara,
3 Colour + 2 B Images (3, 9, 27
April 2023) 31cm Newtonian (F/6.4)
with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html
マノス・カルダシス (MKd) アテネ、ギリシャ
KARDASIS, Manos (MKd)
7 RGB
Sets* + 4 Colour
+ 2 RGB + 1 R Images (5*, 7*, 8*, 11*~14*, 15, 18, 20, 23 April
2023)
36cm SCT with an ASI 462MC & 28cm SCT with an ASI 183MM*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MKd.html
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
LEWIS, Martin (MLw) St. Albans,
Hertfordshire, the UK
1 Colour Image
(19 April 2023) 45cm Dobsonian,
with an Uranus-C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MLw.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
7 Colour
Images (2, 11, 14, 20, 21, 25 April 2023)
25cm SCT with an ASI 120MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla,
1 RGB set
+ 2 RGB images (3, 10, 22 April 2023) 31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA, Michael (MRs) Friars Hill, WV, the
2 Colour Drawings
(20, 26 April 2023) 35cm SCT, 488×
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MRs.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr)
Lindby,
1 Colour
Image (3 April 2023) 53cm Newtonian @f/15
with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_JWr.html
追加報告
阿久津 富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak) Cebu island, The PHILIPPINES
4 Sets of RGB + 3 IR + 2 UV Images (15 November; 11*,
12* December 2022)
36cm SCT, 45cm Newtonian (F/4)* with
Mars-M
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Ak.html
マノス・カルダシス (MKd) アテネ、ギリシャ
KARDASIS, Manos (MKd)
3 RGB images (22, 26, 29 April 2023)
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MKd.html
シャルレス・トリアーナ (CTr) ボゴタ、コロンビア
TRIANA, Charles (CTr) Bogota, COLOMBIA
3 LRGB Colour Images
(23, 24 January; 6 February 2023) 25cm SCT @f/27
with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CTr.html
,
♂・・・・・・ 五・六月の観測ポイント (再掲)
五月には、火星は順行して「ふたご座」から「かに座」へと移動する。視直径(δ)は
δ=5.4”~4.7”と、五月の中旬には5秒角を下回ってしまう。季節はλ=058°~072°Lsと進む。日没時には既に南中を過ぎていて、沈むのは夜半前になる。六月には1日から3日にかけて「かに座」の散開星団プレセペ(M44)の中を通過する。その後は「しし座」へと赤緯を下げてゆく。レグルスとの接近は七月11日のことである。季節はλ=072°~085°Lsと進む。視直径は六月末で、δ=4.2”まで小さくなり今接近の観測期は終わりとなる。
下図には、五・六月中の位相や視直径の変化を図示する。視直径は4秒角台となり、大口径での撮影でも詳細は捉えられなくなるだろう。傾き(φ)は9°N台から20°N台と大きく北を向いてくる。北極冠の縮小を追跡出来る季節だが、次回接近の予習となろう。季節(λ)は、六月末にはλ=085°Lsと、北半球の夏至近くまで進む。赤道帯雲の活動が活発になる季節である。
同じような季節の接近だった2007/2008年の、この期間の様子は以下のリンクから参照できる。視直径は今回よりも少し大きい。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO346.pdf CMO
#346 (25 May. 2008), λ=059°Ls ~λ=072°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO347.pdf CMO
#347(25 June 2008), λ=072°Ls ~λ=086°Ls
七月には観測期の終了となり、観測ポイントの取り上げは、今回が最後である。