CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#07
2024年九月の火星観測報告
(λ=322°Ls ~ λ=338°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#539 (
♂・・・・・・ 『火星通信』に寄せられた九月中の火星の画像を元に、今観測期の七回目のレポートを記述する。火星は九月には順行を続けて、下図のように「おうし座」から上旬には「ふたご座「へ入った。出は日本では夜半前になり、日の出の遅くなったこともあり観測時間はのびていった。
日本では中旬から秋雨前線の南下で曇天傾向が続いて、観測はふるわなかった。惑星撮影者は、土星、木星と夜半からの撮影の連続することもあり、まだ視直径の小さい火星までは手が回らないのかも知れない。
九月には、季節(λ)はλ=322°Lsから338°Lsまで進み、南半球の秋分前の火星面だった。視直径の増加は、δ=6.5”からδ=7.6”と、右図の赤線の傾きが少し大きくなってきた。傾き(φ)は02°Nから09°Nと、北向きに大きくなって、北極雲が明るく捉えられている。位相角はι=41°を推移して、月末には最大のι=41.5°に達した。以後は近づいて来るにつれて夕方の欠けは小さくなって行く。
右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。黄色くマークされているところが、このレポート期間の様子を示している。傾き・中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。
前回接近時の少し視直径の大きかった様子は、上のグラフで比較してある。この期間の九月下旬には、2020年と同時期のλ=309°Lsにクリュセで発生したダスト・イベントあり、CMO#520が以下のリンクから参照できる。
* CMO#520
(01 Sept. ~ 30 Sept 2022, λ=256~314°Ls, δ=9.7~11.9”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/520/2022repo_08.htm
* CMO#521 (01
Oct. ~ 31 Oct 2022, λ=314~331°Ls, δ=11.9~15.0”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/521/2022repo_09.htm
* CMO#522
(01 Nov. ~ 30 Nov 2022, λ=331~347°Ls, δ=15.0~17.2”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/522/2022repo_10.htm
2020年の同時期の観測報告は、以下のリンクから辿れる。CMO#502には、クリュセで発生したダスト・イベントの記事と画像かある。
* CMO #502 (01 Nov. ~ 30 Nov 2020, λ=307~324°Ls, δ=20.1~14.6”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/502/2020repo_13.htm
* CMO #503 (01 Dec.
~ 31 Dec 2020, λ=324~341°Ls, δ=14.6~10.4”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/503/2020repo_14.htm
さらに2003年の、同じ季節の観測報告は下記のリンクにあり、視直径が20秒角程の大きな期間での火星面や、縮小した南極冠の様子などが、沖縄へ観測遠征中の南氏の筆により語られている。
2003年火星課レポートのインデックスページは
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/2003repo/index03.html
(ページ中のリンクが右ウインドに開かないときには、右クリックをして ”新しいタブで開く” などで見ることが出来ます。)
* #20 2003年十二月前半の火星面觀測 CMO #285 (λ=308°~317°Ls, δ=11.1~9.7”)
* #21 2003年十二月後半の火星面觀測 CMO #286 (λ=317°~328°Ls, δ=9.6~8.5”)
#20 CMO #285、#21 CMO #286 には、クリュセで発生したダストイベントの記事がある。
♂・・・・・・ 2024年九月の火星面の様子
○
火星面概況
九月になり、八月のダストイベントも終息に向かっていたが、九月中旬になると、ほぼ同じ場所で再発して、ダストの明るさが捉えられている。大きな発展はなく拡がっているダストベールで暗色模様のコントラストの悪い火星面になっている。
傾き(φ)が北向きになって北極域が大きく見え北極雲も明るく捉えられるようになっている。視直径はまだ小さく詳細は捉えられないが、CMOSカメラでの撮像には十分な大きさになっている。
アルシア・モンスの夕方の山岳雲を捉えた画像は、今回はなかった。ダストイベントの影響もあり、そろそろピークも過ぎて活動は弱まっているものと思われる。
○ ダストイベントのその後
八月18日(λ=314°Ls)に発生した、クリュセ付近にダストイベントは、八月末まで弱い共鳴活動があったようだが、九月になるとダストベールが拡がって、タルシスの高山の頂はピークアウトして、右図のように午前中の火星面でも薄暗い斑点として見えていた。その後も終息に向かうかと思えたが、ちょうど一月後の九月18日(λ=331°Ls)には、下図のようにルナエ・ラクスの西側に明部の発生しているのがフォスター(CFs)氏により捉えられた。西側のカンドールからチトニウス・ラクス方向にも拡がっているようだとしている。南に延びる明部はいつも明るいオピルであることに注意されたい。
翌日にはワレッル(JWr)氏の画像があり、クリュセの南北にダストの黄色味のある明るさが拡がり、マレ・アキダリウムの西側にもかかっているように思われる。翌日と翌々日にもピーチ(DPc)氏が撮影して、クリュセ南部からエオス方面に拡がっているのが確認されている。
その後は、目立つ共鳴活動もなく終息に向かったようである。月末には拡がったダストベールで暗色模様の淡い状況が続いて、タルシスの高山がピークアウトして暗斑に見える様子が再び捉えられている。
今回の一連の活動で、ヒュダスペスがやや濃化して太く見えているようである。
○ 北極雲の様子
マレ・アキダリウム付近の様子を並べてみた。上旬はダストベールの影響もあってか明るさが鈍く感じられる。傾き(φ)がだんだん北向きになっていて、北極雲が大きく見えてきている。マレ・アキダリウムにかかる辺りは特に南に張り出していて、各氏の画像にドーズのスリットが出ている。
次いで、ウトピア付近に掛かる北極雲の様子である。この辺りでは北極雲の張り出しは大きくないが、午前側では南に朝縁にそって明るさが拡がる。ウトピアからボレオシュルティスが縁取っている。
30日のワレッル(JWr)氏の画像には、低緯度側に北極雲と違う雲の帯があり、間が透けて暗色模様が見えている。
この領域に、8日にウイルソン(TWl)氏は午前側に下図のように光斑を捉えて追跡している。サイクロンだったかも知れない。
次には、違う経度域の様子を垣間見る。下図の上段はシュルテイス・マイヨルとマレ・アキダリウムの間の様子である。この領域では、朝方のマレ・アキダリウムに向かって北極雲の厚みと明るさが増している。この領域で今期に目に付くのは、12日のコメントで石橋(Is)氏も指摘するように、シュルテイス・マイヨルの付け根のデルトトン・シヌスの西側の小さな斑点で、テュポン(Typhon)ではとしている。各氏の画像にも認められていて、熊森氏の画像にマークを付けてある。
下段には、マレアキダリウム以西の様子を経度順に並べた。北極雲の特徴は捉えられないが、午前側が明るくなっている。29日の阿久津(Ak)氏の画像には、濃度のあるプロポンティスTと東のディアクリアの間に明班があり、IR画像にマークを付けてある。フレグラの形も感じられる。
今後も、北半球の春分(λ=360°Lsをまたいで、北極雲周辺での活動は活発になるので、注意を払っていただきたい。
下記のリンク記事も参考にされたい。
「北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて) 」
Forthcoming
2005 Mars (9) CMO#305 (25May 2005) p0088〜
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
♂・・・・・・ 2024年九月の観測報告
九月の観測報告は、日本からは三名より15観測。フィリッピンの阿久津氏の5観測。アメリカ側から四名31観測。アフリカから一名の27観測。ヨーロッパ側からは二名より8観測。合計して、十一名からの86観測であった。ワレッル(JWr)氏の追加報告も3観測含まれる。八月のダストイベント発生時にはアメリカ側からの観測数が多かったが、今月は減少している。
クライド・フォスター(CFs)氏とティム・ウイルソン(TWl)氏が、ルーチン観測で観測数が多くなっている。
阿久津
富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak) Cebu island, The PHILIPPINES
1 Set* of RGB
+ 4 Colour* + 3 B + 4 IR Images (7*, 10, 21, 22, 29 September 2024)
45cm Newtonian (F/4) "stopped 30cm" with a SV705C
& an a Mars-M*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER, Clyde (CFs) Khomas,
14 Sets of RGB + 19
IR Images (1~13 , 18~20, 22
September 2024) 17 days
36cm
SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html
石橋 力 (Is)
相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is) Sagamihara,
3 Colour + 2 B Images (2, 10* ,12 September
2024)
31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI 462MC & ASI 290MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Is.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN
6 LRGB + 2 B
+ 6 IR Images (3, 5~7, 11,
18 September 2024)
36cm SCT @ f/38 with an ASI 462MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
6 Colour Images
(3, 4*, 5, 22, 23 September 2024)
25cm SCT with an ASI 290MC & ASI
120MC*,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ
(EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla,
3 RGB
images (6, 20, 28 September 2024) 31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_EMr.html
森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県
MORITA, Yukio
(Mo) Hatsuka-ichi,
4 Sets of RGB
+ 4 Colour* Images (9, 11,
12 September 2024)
36cm SCT with an ASI 290MM & ASI 662MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Mo.html
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc)
Selsey, WS, the UK
2 Colour Images
(19, 20 September 2024) (36cm
SCT with an Uranus-C)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_DPc.html
ゲイリー・ウォーカー (GWk)
ジョージア、アメリカ合衆国
WALKER, Gary (GWk) Macon, GA, the USA
2 Sets of RGB
Images (4, 10 September 2024)
25cm
Mak-Cassegrain with an QYH 5V200M-
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_GWk.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
3 RGB + 3
IR Images (2, 19, 30 September 2024)
53cm
Newtonian @f/15 with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_JWr.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON, Tim (TWl) Jefferson City, MO, the
20 RGB Sets + 20 IR Images (1,4, 5,, 8~11.
17~24,, 25, 26. 30 September 2024)
28cm SCT with an ASI 678MM*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_JWr.html
追加報告
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
3 RGB + 3
IR Images (12, 27 30 Auguat 2024)
53cm
Newtonian @f/15 with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_JWr.html
♂・・・・・・ 十一月の火星面と観測の目安
十一月には火星は、「かに座」で十二月上旬の「留」にむけて順行は遅くなる。プレセペに接近するが通過することなく北側で逆行に移る。出は下旬には21時(JST)台になり夜半からの観測対象になる。視直径(δ)はδ=9.2”からδ=11.6”までと大きくなり、接近期の始まりである。季節(λ)はλ=354°Lsから、12日GMTには北半球の「春分: λ=360°Ls」を過ぎて、月末にはλ=009°Lsまで進む。傾きは北向きで、大きく見える北極雲などが興味を引くことである。北極雲が晴れ上がり北極冠が出現するのは、もう少し季節が進んでからとなる。
十一月の火星面の様子を以下に図示する。経度・緯度のグリッドの表示になっている。
←P は、モータードライブを止めたときに火星が移動して行く方向で、南極を正確に上に向けるときに重要な値(北極方向角)で、暦表ではΠで示している。
北極方向角とは天の北極から惑星面の北極までを、反時計回りに計った値である。
季節(λ)は、λ= 354°Ls〜009°Lsと進み、傾き(φ:中央緯度)は 14°Nから16°Nへ大きくなる。位相角(ι)は、ι=39°台から31°台と少し小さくなり、ピンク色で示した欠けは小さくなってくる。
北半球の春分(
λ=360=000°Ls)を過ぎると、北極周辺の活動が活発になり小規模のダストイベントも発生する。少し季節が進むと北極冠の出現となり、北極雲の間に垣間見られることもあるようになる。
北半球の観測期の始まりであるが、南極雲の生成も始まっていて、傾きが大きく観測は難しいが、南縁にも注意を向けてほしい。