CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#09
2022年十月の火星観測報告
(λ=314°Ls ~λ=331°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#521 (10 November 2022)
♂・・・・・・ 今期九回目のレポートは、『火星通信』に送られてきた十月中の画像より記事を纏める。日本では十月も天候は不安定で、高気圧が移動性となった下旬になって秋晴れの日が現れるようになった。福井の吉澤康暢氏、京都の浅田秀人氏が観測を始めて、画像が多数入信するようになっている。アメリカ大陸側からは、ウィルソン(TWl)氏、メリッロ(FMl)氏、ゴルチンスキー(PGc)氏、モラレス (EMr)氏から複数の報告があった、ヨーロッパ側からは、スウェーデンのワレッル (JWr)氏、フランスのデュポン (XDp)氏、ギリシャのカルダシス (MKd)氏からの報告が入った。赤緯が北に上がり高度の低い為か、南半球からの報告は入っていない。
十月に火星は「おうし座」で順行を続けていたが、30日に「留」となり逆行に移った。いよいよ接近期の始まりで、11月はじめには視直径15秒角に達した。最大視直径は17秒角の中接近だが、12月下旬までは視直径15秒角以上の期間が2ヶ月ほど継続する。この期間には視赤緯は24゚Nを上まわって北に高い状況が続く。火星の出もどんどん早くなって、夜半前の東の空ですぐに高度が上がって来るようになっている。
十月の火星は、季節(λ) はλ=314°Lsから331°Lsまで進んだ、九月下旬に発生したダストイベントは、十月に入っては共鳴発生もなく沈静化していった。南半球高緯度に拡がったダストベールは薄れつつあるが、全球的に薄く拡がったベールが暗色模様を淡く見せている。視直径(δ)は十月には、δ=11.9”から15.0”にまで増加した。傾き(φ)はφ=01°Sから僅かに北向きになって、南向きに戻っていった。火星面はこの期間ほとんど正面を向いていた。位相角(ι)は41°台から29°台になって夕方の欠けが小さくなった。
火星は十月中旬になって、視直径(δ)が15秒角に達して、前回接近の同季節の視直径を上回るようになり、今後は新しい季節を少し大きな視直径で観測できるようになった。
(黄色くマークしたところが、2022年10月の範囲)
同じような季節の前回2020年接近時の様子は、以下のURLから参照できる。
CMO #502 (10 December 2020) λ=307°~324°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/502/2020repo_13.htm
CMO #503 (10 January 2021) λ=324°~341°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/503/2020repo_14.htm
♂・・・・・・ 十月の火星面の様子
この期間、報告数は増えてきたがヨーロッパ側からの数が少なく観測が繋がらない。フォスター氏の欠落が手痛い。ダストイベントは大きな発展はなく局所的な活動で終わりそうである。今期は北極雲の活動が、十月後半から活発になり各氏の画像に捉えられている。
○ ダストイベントの推移
今回は日付を追った画像を並べて、ダスト活動の様子を追跡してみることとする。画像のサイズを揃えるために大きさを変えていることをお断りしておく。
前号では、1日の阿久津氏の画像の以下の様子を次のように伝えた、「1日の阿久津氏の画像では、ダストイベント発生域が写っている。大きな暗色模様はやや認められるようになっているが、あちこちにダストの濃いところが明るく点在している。シヌス・メリディアニ辺りも少し濃度が戻っているようである。アルギュレ辺りから南極にかけてはダストの拡がりが明るく見えている。ノアキスにも明るさが拡がり、北極雲もマレ・アキダリウムの朝方に大きく拡がっている。」
同じ日の少し前の時刻の石橋氏や熊森氏の画像には、ノアキスからシュルチス・マイヨルの南にダストが伸び込んで、アウソニアにまで達している。南高緯度のヘッレスポンティス辺りは大きく濃度が残り、下降域のようである。南極域にも浮遊ダストが達しているようである。
翌日から日本では曇天傾向が続いて良像が入信できなくなったが、セブの阿久津氏の画像から東への拡がりが確認できる。ヨーロッパ側からの画像の入信もあり、西側の様子も判断できた。新しいコアは見えないが、南極域に明るさが拡がっている。4日の画像では、オリュムプス・モンスが、昼前から暗点に捉えられていて、タルシスの高山も暗点に見えて、南半球の低空にもダストのベールが拡がっているのが、高山の山頂がポークアウトして暗く見えている事から判断できる。
7日の阿久津氏の画像では、ヘッラス一帯と南極域が明るくなっている。その後の画像を見てもノアキスからアルギュレにかけてもダストベールが拡がり、南半球高緯度が明るくなっている。
中旬になると、新しいダストイベントの発生はなく、南半球のダストベールもだんだんと薄くなっていったようだが、アルギュレあたりには明るさが残り、高山のポークアウトも続いている。20日の熊森氏のB光画像にも、オリュムプス・モンス付近が暗斑になっているのが写っている。
○ 活発な北極雲の様子
傾きが正面を向いてきて、北極域が深く見えるようなって、十月中旬からは、全経度で北極雲が明るく見えているようになっている。朝方に発達するようで、午前側が盛り上がっているのが画像に捉えられている。マレ・アキダリウム付近が特に活動的で、アメリカ側で捉えられた連日変化する様子を並べてみた。ドーズのスリットと呼ばれる北極雲の切れ間がはっきり判る日が続いた。
その後、マレ・アキダリウム域は、わが国に向いてきて、下旬には熊森氏の連続観測で捉えられている。ドーズのスリットの南側の雲は、明るいコアが感じられる様になっている。
次には、吉澤氏の十月30日の40分インターバル観測から作った、パラパラ動画で北極雲の様子をご覧いただく。マレ・アキダリウム北部のドーズのスリットが廻って隠れてゆくと、後方から明るい二つ玉のある北極雲が続いてゆく様子が、捉えられている。
また、南半球では明るさの残るアルギュレが廻って行き、エオス付近には、10月末でも明るさが残っているのが感じられる。
40分インターバル観測は、火星面の経度10度ずつの変化が追跡できる。翌日も同じ時刻の観測を続けると、経度は10度ずつ変化するが、同じ経度の画像を撮影できて、数日の画像を並べて火星面の変化が比較出来る。詳しくは以下の論攷を参照されたい。
「40分毎観測のすすめ CMO/ISMO #387」
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/387/Mo_Mk_387.htm
ウトピア(Utopia) 付近に懸かる北極雲も明るく認められていて、いくつかの画像を取り上げる。マレ・アキダリウム域と同様に十月後半には活動的になっている。
北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて)Forthcoming 2005 Mars
(9) CMO#305
"Watch
the North Polar Region from λ=310°Ls to λ=350°Ls"
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
○ 南極冠の最終段階
九月23日(λ=309°Ls)にダストイベントが発生して、南半球高緯度にダスベールが拡がり、極小になっている南極冠は傾きが正面になっていることもあり捉えられなくなってしまった。前接近では、11 Jan (λ=346°Ls, δ=9.5”,
φ=22°S)のメリッロ氏の画像にまで確認できていたから、λ=345°Ls過ぎとなる十一月末には、傾きも少しは南を向くので確認できるかも知れない。
ここでは、十一月2日に、ESAのMars Express衛星に搭載されているVMC (The Visual
Monitoring Camera )が撮影した南極冠の最近の様子をご覧いただく。並べた画像は、バイキングが写した1977年の画像で、亀裂までが酷似している。残留する永久南極冠の姿のようである。
○ 夕縁のアルシア雲などの様子
アルシア・モンス(Arsia Mons)に懸かる夕方の山岳雲は、ダストイベントの発生と共に見え辛くなってしまった。ダスト活動の落ち着いてきた頃に僅かに感じられる画像が得られている。
活動のピークは過ぎていて、今後は認められなくなっていくものと思われる。
アルシア・モンスの夕方の山岳雲に関しては下記の記述が参考となる。
* 「2005年のアルシア夕雲」 “The Arsia Evening Cloud in 2005”
[CMO 2005 Mars Note (4)] CMO #321 (
25 July 2006 )
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO321.pdf (p0417-)
♂・・・・・・ 十月の観測報告
十月の観測報告は、日本からの観測は五名から79観測。アメリカ大陸側からは、五名から26観測の報告があった、ヨーロッパ側からは、四名から11観測の報告があった。ピーチ氏とカルダシス氏からの追加報告も3観測含まれる。南半球からの報告は入っていない。合計して、十月には14人から116観測の報告があった。
それぞれの画像は以下のリストのリンクから辿れる。
阿久津 富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak) Cebu island, The PHILIPPINES
3 Sets of RGB + + 1 LRGB
+ 4 Colour* + 4 IR Images (1, 3, 7, 11, 31 October 2022)
36cm SCT with Mars-M & Neptune C-II colour CMOS *
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Ak.html
浅田 秀人 (Ad) 京都市、京都府
ASADA, Hideto (Ak) Kyoto,
11 Colour
Images (15, 20, 26 October 2022) 31cm Newtonian (F/6.5) with an ASI
385MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Ad.html
ザビエル・デュポン (XDp) サン・ロック、フランス
DUPONT, Xavier (XDp) Saint-Roch, FRANCE
3 Colour
+ 2 IR Images (4, 8, 9
October 2022) 35cm
Dall-Kirkham with an ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_XDp.html
ペーター・ゴルチンスキー (PGc)
コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc)
Oxford, CT, The
3 Sets of RGB
images (6, 9, 11 October 2022) 36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_PGc.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is) Sagamihara,
11 Colour
+ 7 B + 2 IR Images (1, 3, 15, 19, 20, 26, 30, 31 October
2022)
31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html
マノス・カルダシス (MKd) アテネ、ギリシャ
KARDASIS,
Manos (MKd)
1 Colour
Image (24 October 2022) 36cm
SCT with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MKd.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI,
Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN
28 LRGB Colour
+ 20 B + 20 IR Images (1, 13, 14, 18~20, 23, 26~30 October 2022)
36cm SCT @ f/38 with an ASI 290MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl)
ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
6 Colour Images
(9, 12, 15, 22, 29, 30 October 2022)
25cm SCT with an ASI 120MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES
RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla,
3 RGB
Images (11, 19, 25 October 2022) 31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA,
Michael (MRs) Friars
Hill, WV, the
1 Drawing (6
October 2022) 35cm SCT, 391×
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MRs.html
ヨハン・ワレッル (JWr)
スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
3 Colour
+ 3 IR Images (4, 9, 10 October 2022) 53cm Newtonian @f/15 with
an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_JWr.html
ティム・ウイルソン
(TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON,
Tim (TWl) Jefferson
City, MO, the
11 RGB Sets
+ 11 B + 13 IR Images (2~6, 10, 14*, 17*, 19~21, 27 October 2022)
36cm SCT with an ASI290MM & ASI 462MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_TWl.html
吉澤 康暢 (Ys)
福井市、福井県 (福井市自然史博物館天文台)
YOSHIZAWA,
Yasunobu (Ys) Fukui,
Fukui, JAPAN
28 Colour Images
(1, 8, 12, 25, 30 October 2022)
20cm refractor* with an ASI 290MC
(*Observatory of the Fukui City Museum of Natural History)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Ys.html
♂・・・・・・ 追 加 報 告
マノス・カルダシス (MKd) アテネ、ギリシャ
KARDASIS,
Manos (MKd)
1 Colour image (30 October 2022) 36cm
SCT with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MKd.html
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc) Selsey, WS, the UK
2 Colour Images
(11 October 2022) [36cm SCT with an ASI
290MM] ?
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_DPc.html
♂・・・・・・ 十二月の観測ポイント
十二月には、火星は「おうし座」で逆行を続けて、最接近を十二月1日11時(JST)に迎える。視直径は17.2秒角に達する中接近である。「衝」は十二月8日(JST)のことで、その後は下図のようにプレアデス星団に近づいて行く。赤緯は25°N付近と高い位置を保って、東京での南中高度は80°程に達する。
視直径(δ)は月末には、δ=14.8”をやや小さくなってしまう。位相角(ι)は07°から、極小は8日にι=1.5°となり増加に転じる。欠けは北側を廻って朝方に移り。季節(λ)は、λ=347°Lsから002°Lsと進み十二月26日に南半球の秋分を過ぎている。この季節には、北極雲から北極冠が瞥見できる時期になっていて、傾きは南向きになっていくが、北極冠出現の様子が観測できる良い機会となる。
既にCMO#514
(10 April 2022) に「2022年 12月のエドムの発光現象に関して」として記事を掲載しているが、十二月3日から7日にかけて、2001年に観測された発光現象の再現が日本を含む経度域に予報されていて、当時の様子や、今回の予報時刻などが紹介されている。下記のリンクから情報をご覧になって、是非、観測を計画してほしい。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/514/2022-23_FC04.htm
下図には、十二月中の位相や視直径の変化を図示する。自転軸の北極方向角はまだ大きく、極冠が見え難くなっているときの位置取りは難しい。火星の進行方向(p)から自転軸の方向を見極めることが大切である。この期間には欠けは夕方側から北縁を廻って朝方へと移った。欠け幅はごく少なく満月状態の火星面は「衝効果」で明るく見える。
視直径は小さくなっているが、前接近の同時期の様子は、以下のリンクから参照できる。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/504/2020repo_15.htm CMO
#504 (10 February 2021), λ=341° ~λ=357°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/505/2020repo_16.htm CMO
#505 (10 March 2021), λ=357°Ls ~λ=011°Ls