CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#10
2022年十一月の火星観測報告
(λ=331°Ls ~λ=347°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#522 (
♂・・・・・・ 今期十回目のレポートは、『火星通信』に送られてきた十一月中の画像より記事を纏める。関東では十一月には天候は移動性高気圧の影響で周期的に変化をして、雨の降ることもあったが、暖かい晴天の日も多く、下旬までは穏やかな日が続いた。月末になると北東気流型となり曇天傾向となって最接近日を控えて気を揉む日が続いた。
視直径も大きくなり、ベテランからの観測報告も増えて充実してきた。オーストラリアからの観測も入るようになり、音信不通だったフォスター氏からも十二月始めにメールが入った。南アフリカから西の隣国、ナミビアに転居したとのことである。
十一月に火星は「おうし座」で逆行を続けて、接近してきた。月はじめには視直径15秒角を越えて、月末には最大視直径に近づいていた。火星の出も早くなって、下旬には日没のすぐ後に昇ってくるようになり、夜半前の東の空で明るく目立つようになっていった。夜半過ぎの南中高度も高く関東では地平高度80°に近くまで昇るようになっていた。阿久津氏のセブでは天頂を過ぎてしまうとのことであった。
十一月の火星は、季節(λ) はλ=331°Lsから347°Lsまで進んで、だいぶ南半球の秋分が近くなってきた。
視直径(δ)は、δ=15.0”から月末には今期最大の17.2”にまで大きくなった。位相角(ι)は29°台から06°台と急速に小さくなって、衝効果が見られるようになった。傾き(φ)は南向きに戻って、月末にはφ=03°S台になっている。火星面はこの期間ほとんど正面を向いていた。
火星は十一月には最接近に向かって、視直径(δ)は増加して、月末には最大のδ=17.2”なった。
(黄色くマークしたところが、2022年11月の範囲)
同じような季節の前回2020年接近時の様子は、視直径はだいぶ小さいが、以下のURLから参照できる。
CMO #503 (10 January 2021) λ=324°~341°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/503/2020repo_14.htm
CMO #504 (10 February 2020) λ=341°~357°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/502/2020repo_13.htm
♂・・・・・・ 十一月の火星面の様子
今期は、十月後半から活発になった北極雲の活動が各氏の興味をひいたようで、M Acidalium付近での活動が特徴的で、様々な様子が画像に捉えられていて以下に紹介する。最終段階を迎えている南極冠だが、傾きか浅くなってしまったこともあり捉えられている画像の入信はなかった。位相角が小さくなり朝方深くまで見えるようになって、朝方の南半球中緯度の朝縁に朝靄の明るさが目立ってきている。ギャラリーページのB光画像に捉えられている。
○
ダストイベント
九月下旬に発生した、ダストイベントは、十月末には南半球に拡がっていたダストベールも薄くなり、暗色模様の濃度も復活して終息に向かった。
その後、十一月23日(λ=343°Ls)にはアメリカのウイルソン氏などがニロケラス(Nilokeras)付近に右図のようにダストの活動を捉えたが、共鳴発展することはなく沈静化した。
この季節のニロケラス付近でのダスト活動の様子は、以下の論攷に2007年に同じよう場所で発生した時の様子が記録されている。
「4 Nov 2007のマレ・アキダリウムの消失と2 Nov(λ=341°Ls) のニロケラス黄塵」
07/08 CMO Note (4) CMO#350 (25 September 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO350.pdf (Ser2-p0979和文)
「5 Novのニロケラス黄塵は朝起こりて昼間動きなし」
07/08
CMO Note (9) CMO#355 (25 February
2009)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn5/CMO355.pdf (Ser2-p1042和文)
○
活発な北極雲の様子と北極冠
この期間、季節はλ=330°Lsを越えて北極雲を透かして、北極冠が垣間見えるようになってきた。ペリエ(CPl)氏は10月末の観測で右図のように確認できるとしている。(12月・英文LtE参照)、北極冠は北極雲との絡みで火星面経度によりいろいろな姿となる。
十一月に入ってからも各氏からの画像にも北極雲と北極冠の様子が多く捉えられていて、マレ・アキダリウム(M Acidalium)付近では、活発な様子が日替わりで捉えられている。上旬には日本から、中旬にはヨーロッパから、下旬にはアメリカ側からの多くの画像が寄せられた。ここではカラー画像だけを取り上げている。またサイズを調整してあることをお断りしておく。
多くの画像に写し出されているドーズのスリットと呼ばれるマレ・アキダリウム上の北極雲の切れ間の北側が北極冠のエッジとされている。北極冠のエッジは緯度線と平行に現れる。北極雲は朝方での活動が活発で、マレ・アキダリウムの経度では、大きく南に張り出して明るく観測されていることが多い。この経度では十一月中には、北極雲と北極冠がはっきり分離している画像は捉えられていないように思う。
次には、北極雲の活動の見られるウトピア(Utopia)付近の様子を取り上げる。ウトピアの頭は月初めから北極雲から飛び出している濃い暗点に見えていた。下旬になるとウトピア東方では、北極雲は退いているように見えていて、明るい白いラインも見えて北極冠のエッジのように思える。
つづいては、プロポンティスT(Propontis I, Ω=180°W,
45°N)の北に緯度線に沿って延びる暗帯の検出に関しての画像を並べる。下記の論攷にも取り上げられているが、ギュンデス(Gyndes)の暗帯と呼ぶ北極冠の周囲を取り巻く暗帯の検出で、北極雲が薄くなるにつれて見える様になってくる。
この暗帯の北側が北極冠だが、十一月中旬からは傾きが南に向いてきて、北極域の見え方が悪くなっているが、下旬にはプロポンティスTの東側に細く延びているのが認められるようになっている。
北極冠の出現は、北極雲が局在していて時期を特定するのは難しい。十二月末の北半球の春分(λ=000°Ls)過ぎには、徐々にハッキリしてくると思われるが、今回の接近では傾き(中央緯度:Φ) は、今後とも視直径の大きな内は南向きで詳しい観測は難しい。
今回の接近と同様な、北極域の観測の指標や観測結果を纏めたいくつかの論攷を、以下に挙げて参考文献とする。
「北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて)」Forthcoming 2005 Mars
(9) CMO#305
"Watch
the North Polar Region from λ=310°Ls to λ=350°Ls"
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
今回と似たような接近で、1990年・1992年の様子を振り返りながら、2007年・2008年の北極雲と北極冠の様子を予報している記事としては、下記を参照していただきたい。
「末期の北極雲と北極冠の境界」 Forthcoming 2007/2008 Mars(5) CMO #329 (25 March 2007)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_5j.htm
「末期の北極雲と北極冠の境界。II」 Forthcoming 2007/2008
Mars (10) CMO #334 (25 July 2007)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_10j.htm
「2008年の北極冠」 Forthcoming 2007/2008
Mars (14) CMO #338 (25 November
2007)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_14j.htm
2007年の北極域の観測の様子は、下記のNoteに纏められている。
「2007年の北極冠はいつ頃から見え始めたか」07/08 CMO Note (3) CMO#349 (25 August 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO349.pdf (Ser2-p0966和文)
「2007年のロモノソフ・クレータ他、クレータの観測」07/08 CMO Note (13) CMO#358 (25 May 2009)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn5/CMO358.pdf (Ser2-p1093和文)
♂・・・・・・ 十一月の観測報告
『火星通信』に寄せられた十一月の観測報告は、日本からの観測は四名から127観測。セブの阿久津氏から2観測。アメリカ大陸側からは、五名から47観測の報告があった、ヨーロッパ側からは、五名から23観測の報告があった。ペリエ氏の追加報告も含まれる。南半球からはオーストラリアのウエッズレイ氏からの報告が入った。十二月からはフォスター氏が復活する。
合計して、十一月には16人から203観測の報告があった。最接近を控えて、フラナガン氏・ルウィス氏・ウエッズレイ氏のベテランが参加してくれた。阿久津氏は観測所設営の最終段階と思われ観測は停滞している。
それぞれの画像は以下のリストのリンクから辿れる。
阿久津 富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak) Cebu island, The PHILIPPINES
2 Sets of RGB + + 1 LRGB + 2 IR + 2 UV
Images (2, 7 November 2022) 36cm SCT with Mars-M
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Ak.html
浅田 秀人 (Ad) 京都市、京都府
ASADA, Hideto (Ak) Kyoto,
34 Colour Images (2, 4, 7, 9~11, 17 November 2022) 31cm Newtonian (F/6.5) with an ASI 385MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Ad.html
ザビエル・デュポン (XDp) サン・ロック、フランス
DUPONT, Xavier (XDp) Saint-Roch, FRANCE
4 Colour
+ 2 IRsGB + 6 IR + 1 B Images (5, 13, 19, 20, 25, 28
November 2022)
35cm Dall-Kirkham with
an ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_XDp.html
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN, William (WFl) Houston, TX, the
2 Sets of LRGB
+ 2 IR Images (27, 28 November 2022)
36cm SCT @f/22
with a Saturn-M SQR
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_WFl.html
ペーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc)
Oxford, CT, The
12 Sets of RGB + 2
IR Images (3, 4, 8, 10, 14, 15, 19~ 21, 24, 29 November 2022)
36cm SCT with an ASI
290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_PGc.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is) Sagamihara,
9 Colour + 9 B
+ 2 IR Images (5, 10, 12, 15, 16, 21, 25, 26 November 2022)
31cm Newtonian (F/6.4)
with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html
マノス・カルダシス (MKd) アテネ、ギリシャ
KARDASIS, Manos (MKd)
2 Colour Images (2,
4 November 2022) 36cm SCT
with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MKd.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai,
Osaka, JAPAN
42 LRGB Colour
+ 1 RGB Colour + 27 B + 27 IR Images (2~5, 8~11,
14~18, 21, 24, 26~28 November 2022)
36cm SCT @ f/38
with an ASI 290MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Km.html
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
LEWIS, Martin (MLw) St. Albans, Hertfordshire, the UK
2 Colour Images
(14, 22* November 2022) 45cm Dobsonian, with an
ASI 224MC & an Uranus-C*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MLw.html
フランク・メリッロ (FMl)
ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
7 Colour
+ 1 Violet(410nm)* Images (3, 10, 15, 20, 23, 24, 27, 29 November
2022)
25cm SCT with an ASI 120MC & a DMK21AU618.AS*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr)
Aguadilla,
11 RGB Images (3,
7, 12, 15, 20, 22, 24, 27, 28, 30 November 2022) 31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html
デミアン・ピーチ (DPc)
ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc)
Selsey, WS, the UK
8 Colour Images
(11/12, 13, 17, 18, 21/22, 30 November 2022) 36cm SCT with an Uranus-C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_DPc.html
アンソニー・ウエズレイ (AWs) クイーンズランド、オーストラリア
WESLEY,
Anthony (AWs) Rubyvale,
4 IR-RGB Colour Images (18,
20, 23*, 26* November 2022)
42cm Newtonian with a Lucid TRI051S-MC & a QHY5III-200M*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_AWs.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON,
Tim (TWl) Jefferson City, MO, the
15 RGB Sets + 15 IR Images (1~3, 7~9, 14,
22, 23, 26, 28 November 2022)
36cm SCT with an ASI290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_TWl.html
吉澤 康暢 (Ys) 福井市、福井県 (福井市自然史博物館天文台)
YOSHIZAWA,
Yasunobu (Ys) Fukui,
Fukui, JAPAN
40 Colour Images
(2, 5, 12, 18, 27 November 2022)
20cm refractor* with an ASI 290MC
(*Observatory of the Fukui City Museum of Natural History)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Ys.html
♂・・・・・・ 追 加 報 告
クリストフ・ペリエ (CPl) ナント、フランス
PELLIER, Christophe (CPl) Nantes, FRANCE * The AstroQueyras Observatory
2 R + 1G
+ 4 B + 3 IR + 4UV Images
(29 October 2022)
62cm
Cassegrain*(F/15) with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CPl.html
♂・・・・・・ 一月の観測ポイント
来年一月には、火星は「おうし座」でまだ逆行を続けているが、12日(20h12m
UTC)には「留」となり、下図のように順行に移る。往復の軌道が重なっていることもあり拡大した図も示す。この期間にもまだ赤緯は24°N台を保っていて、北半球での南中高度は高い。
視直径(δ)はδ=14.7”から月末には10.7”とだいぶ小さくなる。位相角(ι)は19°から33°と朝方の欠けが大きくなってくる。傾き(φ)は少し南向きで、一月中に9°S台で最大になり、月末には8°S台に戻る。季節(λ)は、λ=003°Lsから018°Lsと進み、南半球の秋分を過ぎて、南極は陰に入っている。
この季節には、北極雲から北極冠が出現してくる時期になっていて、傾きは南向きになっていくが、北極冠の様子が観測できる良い機会となる。あらためて、以下の論攷を取り上げておく。
「2007年の北極冠はいつ頃から見え始めたか」07/08 CMO Note (3) CMO#349 (25 August 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO349.pdf
下図には、一月中の位相や視直径の変化を図示する。自転軸の北極方向角はまだ大きく、極冠が見え難くなっているときの位置取りは難しい。火星の進行方向(p)から自転軸の方向を見極めることが大切である。この期間には欠けは夕方側から北縁を廻って朝方へと移った。上旬では欠け幅はごく少なく満月状態の火星面は明るく見える。
視直径は小さくなっているが、前接近の同時期の様子は、以下のリンクから参照できる。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/505/2020repo_16.htm CMO
#505 (10 March 2021), λ=357°Ls ~λ=011°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/506/2020repo_17.htm CMO
#506 (10 April 2021), λ=011° ~λ=025°Ls
「天文年鑑2023」の火星項で取り上げられているが、40分インターバル観測は、火星面の経度10度ずつの変化が追跡できる。翌日も同じ時刻の観測を続けると、経度は10度ずつ変化するが、同じ経度の画像を観測・撮影できて、数日の画像を並べて火星面の変化が比較出来る。詳しくは以下の論攷を参照されたい。
「40分毎観測のすすめ CMO/ISMO
#387」
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/387/Mo_Mk_387.htm