Kwasan and Hida Observatories, Graduate School of Schience, Kyoto University English Home page

ドームレス太陽望遠鏡における補償光学装置の開発

1.補償光学とは

現在、北見工業大学と共同で、ドームレス太陽望遠鏡の常設補償光学系(AO)の開発・最適化を進めています。AOは望遠鏡の焦点面直前に設置し、地球大気のゆらぎの影響を実時間で補正する装置です(1)。波面センサによって望遠鏡に入射する光波のゆらぎを計測し、そのゆらぎを打ち消すように可変形鏡の表面形状を変形させます。この一連の処理を、大気ゆらぎの凍結時間(ゆらぎが変化しないとみなせる時間)よりも十分に速く繰り返すことによって、観測装置では常に大気ゆらぎが補償された太陽像が得られます。太陽表面上の微細構造の観測を可能にし、太陽物理学にとって重要なデータを得るために、AOは太陽地上観測ではいまや必須の装置といえます。

1 天文用補償光学の原理

 

2.補償光学の効果

図2は、200891日にドームレス太陽望遠鏡のAO(実験機)を通して観測された太陽粒状斑の画像です。観測波長は430nmで、視野は39×31秒角です。AOを動作させない場合には、大気ゆらぎの影響で画像がぼけてしまい、細かな構造が見えなくなっているのに対して、AOを動作させると、画像全体のコントラストが向上し、個々の粒状斑がはっきりと見えるようになります。様々な波長域における微細構造の時間変化を定常的に観測することが太陽物理学の研究には非常に重要なのです。

 

図2 補償光学系を動作させた場合()と動作させない場合()に得られた太陽粒状斑像

 

3.装置概要

ドームレス太陽望遠鏡は20mの塔上に設置されており、望遠鏡からの光は地上1階の垂直分光器もしくは2階の水平分光器のスリット上で結像するようになっています。AOを使用する際には、途中に斜鏡を入れ、光をAO装置に導入しゆらぎ補償を行ったのち、同じビームを本来の望遠鏡光路に戻します。図3は2014年度まで垂直分光器焦点面直前に設置して開発実験を行なってきたAOの光学系です。リレーレンズ系によって、望遠鏡の瞳像をTip-tilt鏡、可変形鏡、スキャン鏡上で3回結像させています。可変形鏡を反射したのち、2枚のビームスプリッタによって、波面センサおよび位置ずれセンサに光を導入しています。Tip-tilt鏡では、位置ずれセンサからの情報を基に、鏡の傾きを調整し、大気ゆらぎによる像全体の位置の変動を打ち消します。可変形鏡は、入射光波の凹凸を打ち消すことで、画像の劣化を補償します。スキャンミラーは、分光器のスリット上で太陽像を走査するために使用します。

このAOシステムは、位置ずれセンサからの情報をもとにtip-tilt鏡を制御する系、および波面センサからの情報をもとに可変形鏡を制御する系という二つの独立した閉ループ制御系よりなります。それぞれの制御は標準的なPCによって行われており、ネットワークを介してGUIインターフェースにより操作することができます。

3 垂直分光器用補償光学系

 

4.装置詳細

表には、上記AO実験機で用いてきた素子やそのパラメータなどを示してあります。可変形鏡には、52個の電磁型アクチュエータを持つものを使用しています。薄膜鏡の裏に52個の磁石が貼り付けてあり、対応する位置にある個々のコイルに流す電流を調整することによって、薄膜鏡面を変形させることができるというものです。Tip-tilt鏡は、ピエゾ素子によって2軸の傾き角を調整できるステージ上に、鏡を貼り付けたものです。センサ用のカメラには2台とも、1秒間に955枚の画像取り込みが可能な高速CCDカメラを用いています。波面センサはShack-Harmann型を採用しており、CCDカメラの前に6x6のマイクロレンズアレイを置いたものです。

波面補償はモード制御であり、計測する波面形状および可変形鏡への電圧印加パターンをゼルニケ多項式の線形和で表しています。現在は、ゼルニケ多項式をピストンを除く9項まで使用しています。装置のスペック上、数cm程度の空間的に細かなゆらぎは補償することができません。また、波面センサ上の各サブアパーチャでの像のずれを求めるためのアルゴリズムとして、相関、絶対差和、重心の3つを用意してあり、状況に応じて使い分けることができます。図2の観測を行ったときは、絶対差和アルゴリズムを用いました。

 

表 補償光学装置に用いている素子およびそれらの仕様

可変形鏡

連続鏡面、電磁型アクチュエータ:52個(直交配列)、 開口直径:15mm (ALPAO社製)

Tip-tilt ステージ

ピエゾアクチュエータ2  (piezosystem jena社製)

マイクロレンズアレイ

6x6直交配列のうちサブアパーチャ20個使用

焦点距離:28.2 mm (Nalux社製)

センシング用カメラ

画素数:256x256、画素サイズ:10μm、フレームレート:955fps (Dalsa社製)

制御計算機

Pentium IV 280 Hz および 340 Hz (Dell社製)


 現在は、この実験機で培った技術を生かして、2階水平分光器室内に、垂直・水平分光器焦点面両用の常設AOシステムを開発・最適化する作業を推進中です(図4)。

4 DST常設型 新補償光学系


 

5.業績

 学術雑誌および国際会議で発表した論文のリストです。

[1] Solar Adaptive Optics System Based on Software Control

N. Miura, T. Kobayashi, S. Sakuma, S. Kuwamura, N. Baba, Y. Hanaoka, S. Ueno, and R. Kitai,

Optical Review, Vol. 13, 338-345 (2006).

[2] Performance of Software-based Solar Adaptive Optics System

N. Miura, Y. Noto, S. Kato, S. Kuwamura, N. Baba, Y. Hanaoka, S. Ueno, and R. Kitai,

Optical Review, Vol. 14, 159-160 (2007).

[3] Solar adaptive optics system at the Hida observatory

 N. Miura,, Y. Noto, S. Kato, S. Kuwamura, N. Baba, Y. Hanaoka,S. Nagata, S. Ueno, R. Kitai,

and H. Takami,

Proc. SPIE. Vol. 7015, 70156U-8 (2008)

[4] Advances in Solar Adaptive Optics System at the Domeless Solar Telescope of the Hida Observatory

N. Miura, Y. Noto, S. Kato, F. Yokoyama, S. Kuwamura, N. Baba, Y. Hanaoka, S. Nagata, S. Ueno,

R. Kitai, K. Ichimoto, and H. Takami

   Proc. SPIE, Vol. 7239B, 7239B-30 (2009)

[5] Solar Adaptive Optics System by Use of Electromagnetic Deformable Mirror

 N. Miura, Y. Noto, S. Kato, F. Yokoyama, S. Kuwamura, N. Baba, Y. Hanaoka, S. Nagata, S. Ueno,

R. Kitai, K. Ichimoto and H. Takami

Optical Review, Vol. 16, 558-561 (2009).