Kwasan and Hida Observatories, Graduate School of Schience, Kyoto University English Home page
鏡の保守作業

鏡は反射望遠鏡のもっとも大切な部分と言えます。精度のよい反射率、面精度 も時間とともに劣化し、散乱光の原因にもなります。天文台では、梅雨の時期 を狙って、保有する望遠鏡の鏡の保守作業を行っています。

鏡の保守作業の基本は、古いアルミメッキをはがし、新しいアルミメッキを施 すことです。アルミのメッキは、真空にした専用装置の中で、アルミを蒸着さ せて行います。この専用装置のことを「真空蒸着装置」と呼び、当天文台では 飛騨天文台にこの装置があります。

今年(2004年)6月から7月にかけて、花山天文台シーロスタット望遠鏡と飛騨天 文台60cm反射望遠鏡の鏡の保守作業を行いました。花山天文台の鏡は一度取り 外した後、京都から飛騨天文台まで慎重に輸送します。 飛騨天文台に到着した鏡は

  1. 古いアルミメッキ剥し
  2. ガラス面の洗浄
  3. アルミ蒸着(メッキ)
のプロセスを経て、生まれ変わります。

アルミメッキ剥し

水酸化ナトリウム水溶液をかけて、古いアルミニウム面を溶かします。


ガラス面の洗浄

アルミニウムメッキが消えて、鏡というより透明な板になったガラス表面を、 エタノール+エーテル混合液で丁寧に洗浄・脱脂します。そして、よく乾燥さ せます。

ガラスが乾燥すると真空蒸着装置の中に入れて、内部の空気を抜いていきます。 真空に近い状態まで空気を抜いたところで、内部で放電を行い酸素ガスにより プラズマを発生させてガラス面に照射します。この処理は「イオンボンバード」 と呼ばれ、これによりガラス表面の不純物を取り除き、同時にガラス面を活性 化させて、アルミニウムメッキの接着性を高める効果があります。



アルミ蒸着(メッキ)

文字通り、蒸着作業の山場です。釜の中の空気を更に抜いて真空状態に近づけ (大気圧の約7000万分の1まで)ます。そして、アルミニウムを溶かし込んだフィ ラメントに通電し、1600度近くまで加熱してアルミニウムを蒸散させ、ガラス 面に付着させます。ガラス面の裏側に設置したランプが、蒸着していくアルミ ニウム膜で徐々に見えなくなる様子を目で見て、適当なタイミングで通電を停 止してアルミニウム膜の厚さを調整します。アルミニウム膜の厚さは薄すぎて も、厚すぎてもいけません。(アルミ蒸着時の真空蒸着器内の様子を撮影した 写真を、こちら(クリック!)からご覧いただ けます。)

蒸着時間は僅か10秒程度。失敗すれば再び何時間もかけて準備のやり直しにな ります。みるみる見えなくなっていくランプの明るさだけを頼りに、蒸着終了 のタイミングをはかるのは、長年の経験に基づいた絶妙の感覚が頼りです。


実際の蒸着行程にはこれ以外にも何十もの手順があります。その中には、蒸着 の効率を上げるために、予めアルミニウムをフィラメントに溶かし込んでおく アニール作業、また均一のメッキ面を得るために、蒸着直前にフィラメントに 通電してフィラメントを予め加熱する予熱行程など、先達の苦労の結果生まれ たものもあります。観測研究はこういった苦労や手間の上に成り立っています。