CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#04
2022年五月の火星観測報告
(λ=219°Ls ~λ=238°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#516 (
♂・・・・・・ 今期四回目のレポートは、五月末までの『火星通信』に寄せられた画像により記述される。まだ報告数は少ないが、南アフリカのフォスター(CFs)氏がルーチン観測を続けている。北半球では明け方の火星の高度はまだ低く、月末になってメリッロ(FMl)氏がルーチン観測に入っただけである。石橋(Is)氏もまだ早いとの判断であった。
この期間の火星は朝空の「みずがめ座」から「うお座」へ進み、五月30日には視赤緯は00°を越えて北天へと入った。太陽との離角も大きくなり、火星の出も午前一時台と早くなってきたが、日の出時の高度はまだ十分でない。
図のように火星は、海王星を18日に追い抜いて、29日(GMT)には木星と接近した。火星の光度は+0.6等級にまで明るくなっているが、木星と並んではまだ見劣りがした。
この期間に火星は、視直径(δ)が δ=5.8”〜6.4”に大きくなった。中央緯度の傾き(φ)は25°Sと大きく南に傾いて、中旬に最大(25.32°S)になって戻っていったが、月末でも24.6°Sと大きく傾いていて、融解が進んでいる極冠内部の様子が捉えられている。位相角(ι)は38°から42°にさらに増加して、夕方側の欠けが大きくなっている。季節(λ) は、λ=219°Lsから238°Lsまで進んで、黄雲発生の季節は引き続き続いていたが、大きな擾乱は観測されていない。
同じような季節の前回2020年接近時の様子は、以下のURLから参照できる。右図の様に視直径は二倍程度大きかった。
(黄色くマークしたところが、2022年5月の範囲)
CMO #495 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/495/2020repo_06.htm
CMO #496 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/496/2020repo_07.htm
♂・・・・・・ 五月の火星面の様子
今回もフォスター氏から報告された画像から、火星面の様子を日付・中央経度順に並べた画像をご覧いただく。 五月には、M.Sirenum (マレ・シレナム)が中央に見えているところから、M.Cimmerium (マレ・キムメリウム)が夕方に見えているところまで、ほぼ一廻りが捉えられている。
3日の画像では夕縁にTharsis(タルシス)あたりの夕靄の明るさが淡く捉えられている。B光画像ではハッキリする。Solis L(ソリス・ラクス)あたりは詳細が見えてきた。傾きが南向きに大きくM Acidalium (マレ・アギダリウム) あたりは北端に押し込められている。
他にも、S Meridiani (シヌス・メリディアニ)、Hellas (ヘッラス)、Syrtis Mj (シュルチス・マイヨル) などの顕著な明暗模様は、平常に捉えられていて、大きな擾乱の発生はなかったようである。
次には融解が進んで偏芯を始めている南極冠の様子を、内部の暗色模様と周縁部の明部に的を当てて見てみようと思う。下図には、アントニアジ氏の著書の南極図に、フォスター氏の南極冠の画像を並べてみた。この期間の南極冠の雪線緯度は68°〜71°S付近にあると考えられる。視直径はまだ小さいが、極冠内部には明暗が捉えられている。
南極冠内部の暗帯は、Rima Angusta (リマ・アングスタ)、 Rima Australis (リマ・アウストラリス) 。暗部は、Depressio Magna (デプレッシォ・マグナ)、Depressio Parva (デプレッシォ・パルバ)等が認められる。極冠周辺部の輝部は、Mons Argenteus (モンス・アルゲンテウス)、Thyles Mons (チュレス・モンス)、Novus Mons (ノウォス・モンス)等が明るく認められる。
{
Rima : 裂け目。Depressio: 凹地。Mons: 山。}
♂・・・・・・ 五月の観測報告
観測報告は、今月もフォスター氏中心で、21日間で22観測(IR・R画像を含む)であった。メリッロ氏も観測をスタートさせて、5観測の報告があった。月末からはルーチン観測に入ったようである。ロッゾリーナ氏からは、カラースケッチの報告があった。日本からは石橋氏が望遠鏡を向けたようだが、まだ良い画像は得られないとのことで、ルーチン観測にはなっていない。五月には四人から合計28観測の報告があった。それぞれの画像はリストのリンクから辿れる。
クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリカ
FOSTER,
20 Sets of RGB
+ 1 R + 21 IR Images
(1, 2, 5, 7, 12~15, 18~22, 29,
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CFs.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is)
1 Colour Image (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
3 Colour
+ 3 R(610nm) Images (1, 29,
25cm SCT with an ASI120MC & DMK
21AU618.AS
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA, Michael (MRs) Friars
Hill, WV, the
1 Drawing (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MRs.html
♂・・・・・・ 七月の観測ポイント
七月には、火星は順行をつづけて「うお座」から「おひつじ座」へと進む。火星の出も下旬には夜半前になり、赤緯は10°Nから15°Nに上がって夜半過ぎの観測対象である。視直径は、δ=7.2”~8.2”と増加してくる。季節(λ)は、λ=257°~276°Lsと動き、南半球の夏至(λ=270°Ls)を挟むこととなる。黄雲発生の季節は続いていて監視が重要である。また、南極冠の縮小は進み、Novus
Mons の分離から消滅までの観測できる期間にあたる。欠けは引き続き増加して、ほぼ最大となる。月末には天王星と近づいて、最接近は八月1日のこととなる。
下図には、七月中の位相や視直径の変化を図示する。雪線(SL:
Snow Line)は平均的な緯度で作図しているが、偏芯の様子は描写していないことをお断りする。傾きφ
(中央緯度)
はさらに北向きになり、極小となった南極冠の様子は捉えるのがだんだん難しくなって行く。火星面経度(Ω)=030°W方向の、Mons
Argentius付近が最後まで融け残るところとされている。
参考として、
南極冠は何時偏芯するか [2001年の火星 (7) ] CMO #240 (25 February
2001 )
http://www.mars.dti.ne.jp/~cmo/coming2001/0107/07j.html
經緯度圖で南極冠の偏芯を見る “Forthcoming 2005 Mars
(11)” CMO #307
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_11.htm
を取り上げておく。後者の中からλ=250°Lsの図を再掲して、融解と偏芯の進んだ様子を示す。
視直径が大きい前接近の同時期の様子は、以下のリンクから参照できる。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/497/2020repo_08.htm CMO #497 (10 September 2020), λ=250°~269°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/498/2020repo_09.htm CMO
#498 (25 September 2020), λ=269°~279°Ls