CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#11
2022年十二月の火星観測報告
(λ=347°Ls ~λ=003°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#523 (
♂・・・・・・ 『火星通信』に送られてきた十二月中の画像より、今期十一回目のレポートを纏める。十二月になっても天候は周期的に変化をして、関東では日中は穏やかな暖かい師走であった。日本海側では北陸から北で雪の降ることが多くなり、福井ではほとんど観測が出来なかったようである。
十二月1日が今回接近の最接近日で、視直径は17.2秒角に達した。黄経での「衝」は8日(05:42 UTC)のことであった。最接近後には「エドムでの発光現象」の条件が整い、日本を含む経度範囲でエドム付近が観測できたが、現象の発生を確認したとの報告は入っていない。
火星は十二月にも「おうし座」で逆行を続けて、ヒアデスの北に進んだ。視直径は最接近の1日には今接近最大の17.19秒角に達した。季節(λ) はλ=347°Lsから進んで、26日には南半球の秋分(λ=000°Ls)を迎えて、末日にはλ=003°Lsであった。
視直径(δ)は、δ=17.2”から月末には14.7”にまで減少した。位相角(ι)は月初めの06°台から、「衝」の8日には、最小のι=1.47°となった。この時の太陽直下点の緯度(Ds)は南緯4°ほどで、細い影は北極を回って朝方へ移動した。月末にはι=19°台まで増加して朝方の陰りがハッキリとしてきた。傾き(φ)はφ=03°S台から南向きになって、09°Sほどになっている。
火星は十二月には最接近の視直径最大のδ=17.2”から、月末には14.7”にまで小さくなった。
(黄色くマークしたところが、2022年12月の範囲)
同じような季節の前回2020年接近時の様子は、視直径は10秒角以下だが、以下のURLから参照できる。
CMO #504 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/502/2020repo_13.htm
CMO #505 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/505/2020repo_16.htm
一サイクル前の2007年の同時期の様子は、以下のPDFファイルの記事を参照されたい。この時の最接近は、十二月18日で最大視直径はδ=15.88”であった。「衝」は十二月24日に「ふたご座」で迎えた。
CMO#339
(16 Nov~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO339.pdf
CMO#340
(1 Dec~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO340.pdf
この同じ季節の様子は、これから取り上げる、北極雲と北極冠の様子。朝方南半球高緯度(50°S付近)の朝靄から内部に伸びる明帯。タルシス三山やオリュムプス・モンスでの夕方の山岳雲の発生が、この季節から始まることが、2007年の観測でも確認されている事が述べられている。
また、この時期から、MRO MARCI Weekly Weather
Reports の、破れ提灯動画の配信が始まっている。以下のURLから現在でも見ることが出来る。
https://www.msss.com/view.php?page=subject/weather_reports
♂・・・・・・ 十二月の火星面の様子
十二月は、今期の「最接近」と「衝」が続いて観測の好期であった。日本では周期的に天候は変化して、シーイングも勝れずに報告数は伸びなかった。北米でも記録的な寒波が続いて、厳しい観測条件であった。
○ 活発な北極雲の様子と北極冠
視直径が大きくなっていたこの期間には、詳細を捉えた画像が多く寄せられてきた。今回もマレ・アキダリウム(M Acidalium)付近の北極雲・北極冠の様子をご覧いただく。朝方に盛り上がっているところと夕方側では色調が違うことに注意したい。夕方側は北極冠が見えているように思えるが、判然としない。明るく輝く北極冠が見えるようになるには、傾き(φ)が北向きになる3月中旬まで待たなければならない。残念ながら視直径は6秒角台に小さくなってしまう。
画像のサイズを合わせるために大きさを調整してあることをお断りしておく。
ドーズのスリットはほとんど見えているようで、マレ・アキダリウム北部からテムペ(Tempe)・アルバ(Alba)方向へ伸びている雲帯を挟んで顕著である。このことは下に引用してある2007年の同季節(λ)のデミアン・ピーチ(DPc)氏の画像でも同様である。マルガリティフェル・シヌス(Margaritifer S)からオクシア・パルス(Oxia Pauls)にかけてでは、2018年6月のダスト活動での暗色模様の変化が比較できる。
2007年の北極域の観測の様子は、下記のNoteに纏められている。
「2007年の北極冠はいつ頃から見え始めたか」07/08 CMO Note (3) CMO#349 (25 August 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO349.pdf (Ser2-p0966和文)
○ 衝効果など
次の図には、マレ・アキダリウム(M Acidalium)領域から東側に経度を追っての火星面を並べている。衝(8 Dec)の前後で位相角(ι)がι=08°以下の期間には、オリュムプス・モンス(Olympus Mons)等が午前中の火星面から明るく見える衝効果が起きることが知られていて、10 Dec (ι=03°)のフォスター(CFs)氏の画像等に捉えられている。また、アルバ(Alba)付近も明るく見えている。また、8 Dec (ι=02°)のフラナガン(WFl)氏の画像には、エリシウム・モンス(Elysium Mons) と、その北のヘカテス・トーラス(Hecates Tholus)が小さな二つの光点に捉えられている。
プロポンティスT(Propontis I, Ω=180°W,
45°N)の北のギュンデス(Gyndes)付近では北極雲の活動は弱く、暗帯がハッキリしてきて、その北側は北極冠のようである。ウトピア(Utopia )付近では北極雲がまだ活動的で、マレ・アキダリウム領域に続いている。
○ 青色光画像の成果
次には、青色光の画像を日付順に並べてみた、北極域の明るさばかりでなく、南半球の朝方の50°S程のところに朝縁から伸び込む明帯があり、カラー画像にも出ているが、どの経度でも確認できる。南極域や夕縁の明るさも感じられる。
タルシス三山やオリュムプス・モンスに懸かる夕方の雲の活動が既にあるようで、W型雲の一部と思われる画像も捉えられている。アルシア・モンスに懸かる山岳雲も下旬の画像には捉えられて、カラー画像にも明るさが認められる。
♂・・・・・・ 十二月の観測報告
『火星通信』に寄せられた十二月の観測報告は、日本からの観測は二名から28観測。アメリカ大陸側からは、七名から38観測、ヨーロッパ側からは、五名から28観測の報告があった。南半球からはオーストラリアのウエッズレイ氏から9観測、ナミビアに転居したフォスター氏からは12観測の報告があった。フォスター氏はまだ観測室が無くご苦労が多いようである。スウェ−デンのワレッル氏からは、八月からの追加報告が15観測、入信している。合計して、これまでに16人から132観測の報告があった。
それぞれの画像は以下のリストのリンクから辿れる。
グザヴィエ・デュポン (XDp) サン・ロック、フランス
DUPONT, Xavier (XDp) Saint-Roch, FRANCE
4 Colour
+ 6 IR Images (9, 16, 26,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_XDp.html
ビル・フラナガン (WFl)
テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN,
William (WFl)
5 Sets of LRGB
+ 1 LRGB +5 IR Images (1, 8, 15, 16, 18,
36cm SCT @f/22 with a Saturn-M SQR
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_WFl.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER,
12 Sets of RGB + 12
IR Images (2/3, 8~11, 16, 17,
19, 20, 23, 25, 26,
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CFs.html
ペーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc)
11 Sets of RGB + 1
IR Images (2, 5, 6, 14, 19, 21, 22, 26,
36cm SCT with an
ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_PGc.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is)
4 Colour + 3 B
Images (3, 10,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html
マノス・カルダシス (MKd) アテネ、ギリシャ
KARDASIS,
Manos (MKd)
3 Colour + 2 B
+ 1 IR Images (2, 15,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MKd.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI,
Teruaki (Km)
24 LRGB Colour
+ 12 B + 12 IR Images (1, 2, 6~ 8, 10, 14~16, 20, 27, 30,
36cm SCT @ f/38 with an ASI 290MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Km.html
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
LEWIS,
Martin (MLw)
3 Colour
+ 1 B* + 1 IR* Images (10**, 15,
45cm Dobsonian, with an ASI 224MC & ASI 174MM* & an Uranus-C**
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MLw.html
フランク・メリッロ (FMl)
ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
6 Colour
Images (2, 5, 14, 21,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES
RIVERA, Efrain (EMr)
12 RGB + 1 R
+ 1 IR +1 UV images (1~3, 5, 8, 12, 20, 22, 23, 26, 28,
31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html
クリストフ・ペリエ (CPl)
ナント、フランス
PELLIER, Christophe (CPl)
4 Colour + 21
various filter Images (9/10
December 2020)
31cm
speculum with an ASI 290MM & ASI 224MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CPl.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA,
Michael (MRs) Friars Hill, WV, the
1 Colour Drawing
(
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MRs.html
シーン・ウォーカー (SWk) ニューハンプシャー、アメリカ合衆国
1 Colour
+ 1 IR Images (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_SWk.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
7 Colour
+ 11 IR Images (8, 12, 14~17, 23,
53cm Newtonian @f/15 with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_JWr.html
アンソニー・ウエズレイ (AWs) クイーンズランド、オーストラリア
WESLEY, Anthony (AWs) Rubyvale,
8 Colour + 1 IR Images (1,
2, 5, 9, 11, 16, 21, 26,
42cm Newtonian with a QHY5III-200M
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_AWs.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
2 RGB Sets + 2 IR Images (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_TWl.html
♂・・・・・・ 追 加 報 告
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
1 Set of RGB*
+ 10 Colour + 15 IR Images
(7, 9, 11~14, 17, 22 August;
1, 2, 5, 19 September; 1,
18. 24* November 2022)
53cm Newtonian @f/14 with an ASI
462MC &
*43cm Corrected Dall-Kirkham @
f/6.8 with an ASI 6200MM
* (remote: SAAF Margareta Westlund
Telescope, Oria
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_JWr.html
,
♂・・・・・・ 二月の観測ポイント
二月には、火星は「おうし座」で順行をして「ふたご座」へ近づいている。この期間にもまだ赤緯は高く、二月中旬には25°Nを越えて、北半球では日没後の空高く見えている。
この時期、傾きはまだ少し南向きになっているが、北極冠が明るく認められるようになっている。あらためて、以下の論攷を取り上げておく。
「2007年の北極冠はいつ頃から見え始めたか」07/08 CMO Note (3) CMO#349 (25 August 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO349.pdf
下図には、二月中の位相や視直径の変化を図示する。自転軸の北極方向角はまだ大きい。視直径の低下は早く、二月はじめには10秒角を下回ってしまう。視直径(δ)はδ=10.7”から月末には8.2”と急速に小さくなり、詳しい観測は難しくなって行く。位相角(ι)は33°から37°と増加して欠けが大きくなる。傾き(φ)は8°S台から4°S台と少し北を向いてくる。季節(λ)は、λ=018°Lsから031°Lsへと進み、北半球の春が始まる。
視直径は小さくなっているが、前接近の同時期の様子は、以下のリンクから参照できる。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/506/2020repo_17.htm CMO
#506 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/507/2020repo_18.htm CMO
#507 (10 May 2021), λ=025°Ls ~λ=039°Ls