CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#13
2023年二月の火星観測報告
(λ=018°Ls ~λ=031°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#525 (
♂・・・・・・ 『火星通信』に送られてきた二月中の画像より、今期十三回目のレポートを纏める。二月には、火星は「おうし座」で接近後の順行を続けて遠ざかっていった。日没後の天頂付近に光っていたが、光度もプラス等級となり、アルデバランと変わらなくなった。天気は周期的に変化するようになり、関東では中旬に天気が崩れた。寒気の南下もあり、気温の日較差が大きくなっていた。
季節(λ) はλ=018°Lsから、031°Lsまで進んだ。視直径(δ)は、δ=10.7”から8.2”にまで減少した。位相角(ι)は月初めの33°から、月末にはι=37°まで増えて、南半球の朝方の欠けが大きくなっている。中央緯度(φ)はφ=08°S台から北向きに戻って、月末では04°S台になっている。
(黄色くマークしたところが、2023年2月の範囲)
前回2020年接近時の記事は、以下のリンクから辿れる。
CMO#506
(1 March~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/506/2020repo_17.htm
CMO#507
(1 April~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/507/2020repo_18.htm
一サイクル前の同様の接近だった2007-2008年の接近時の様子(青い線)を今回の接近と比較すると、当時の視直径(δ)は、まだ10秒角以上に大きく下記の記事が参考になる。
CMO#343
(16 Jan~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO343.pdf
♂・・・・・・ 二月の火星面の様子
二月は、火星は日没後すぐに南中となり天頂近い空に高く昇っていた。夜半過ぎには沈むようになって、夜半前の時間の観測となっていた。この期間にも大きな擾乱は見られず、火星の季節は北半球の春へと進んでいた。北極雲はまだ完全には晴れ上がらずに、マレ・アキダリウム(M Acidalium)付近では捉えられていた。中央緯度が南向きのこともあり北極冠は北端に薄く見られるだけであったが、どの画像にも認められている。
○ 火星面概況
今回は寄せられた画像を経度順に並べてご覧いただく。日付順でないことと、画像のサイズを合わせるために大きさを調整してあることをお断りしておく。
どの画像にも北縁には北極冠が明るくあって、北極雲はほぼ無くなっていると思われるが、マレ・アキダリウムには、まだ北極雲が懸かっている。南半球高緯度には靄がかかり、アルギュレ(Argyre)の明るさが朝方から夕方まで感じられのが、青色光画像でははっきり捉えられている。クリュセあたり(Chryse-Xanthe)は、夕縁で明るさが出ていて、タルシスの夕方の山岳雲が28 Febのフラナガン(WFl)氏の画像(ω=169°W)には、はっきり認められる。南半球高緯度の靄は、ほぼ全周に拡がっているようで、マレ・キムメリウム(M.Cimmerium)の南方でも、暗いマレ・クロニウム(M Chronium)に挟まれて、東西に延びている。夕方・朝方で明るくなっているように思える。ヘッラス(Hellas)も南側は覆われるようで、北側の境界はハッキリしているが南側は靄の中である。
位相角が大きくなってきたこともあり、朝方には高山の影が出るようになっている。9 Febの熊森(Km)氏の画像に認められる。エリシウム(Elysium)は、フレグラ(Phlegra)などが、やや濃度があるために周囲の輪郭がハッキリして五角形に捉えられている。夕方に廻るとエリシウム・モンス辺りが明るくなっているのが認められる。
○ 参考文献 (再掲)
南緯50°S付近の雲帯や午後の山岳雲活動の始まりなどは、季節的な活動のようで、上記の2007/08年の観測レポートや、以下にリンクを付けた観測ノートに同様の活動のあったことが記述されている。
「2007年北半球春分に於けるアルバ・モンス周邊の氷雲」07/08 CMO Note (7) CMO#353 (25 December 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO353.pdf (Ser2-p1015和文)
「9 Jan 2008 (λ =015°Ls) からの白昼のアルギュレ白雲」07/08 CMO Note (5) CMO#351 (25 October 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO351.pdf (Ser2-p0989 English・和文)
「2007年の北極冠はいつ頃から見え始めたか」07/08 CMO Note (3) CMO#349 (25 August 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO349.pdf (Ser2-p0966和文)
07/08
CMO NoteのインデックスページのURLは下記のようになっている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2007NoteIndex.htm
♂・・・・・・ 二月の観測報告
『火星通信』に寄せられた二月の観測報告は、報告者にあまり変化はないが、報告数は減少している。日本からの観測は二名から7観測。熊森氏が月半ばにはベランダ観測の限界になり観測数を減らしている。アメリカ大陸側からは、三名から14観測、ヨーロッパ側からは、四名から17観測の報告があった(カルダシス氏の追加報告が2観測含まれる)。南半球からは、ナミビアのフォスター氏から8観測の報告があった。合計して10人から46観測の報告だった。
それぞれの画像は以下のリストのリンクから辿れる。
グザヴィエ・デュポン (XDp) サン・ロック、フランス
DUPONT, Xavier (XDp) Saint-Roch, FRANCE
2 Colour Images
(6,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_XDp.html
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN,
William (WFl)
2 Sets of LRGB
Images (6,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_WFl.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER,
8 Sets of RGB +
8 IR Images (7, 13, 14, 17~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CFs.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is)
4 Colour + 3 B Images (4, 9,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI,
Teruaki (Km)
3 LRGB Colour
+ 1 B + 1 IR Images ( 3, 9,
36cm SCT @ f/38 with an ASI 462MM, ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Km.html
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
LEWIS,
Martin (MLw)
2 Colour
Images (6, 19* February 2023) 45cm
Dobsonian, with an ASI 224MC & Uranus-C*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MLw.html
フランク・メリッロ (FMl)
ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
7 Colour
Images (6, 9, 12, 15, 19,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr)
5 RGB
images (7, 12, 12n, 17,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
9 Colour
+ 10 IR Images (2, 4, 7, 8, 13, 18, 26,
53cm
Newtonian @f/15 with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_JWr.html
追加報告
マノス・カルダシス (MKd) アテネ、ギリシャ
KARDASIS,
Manos (MKd)
2 Colour + 1 IR
images
(28,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MKd.html
,
♂・・・・・・ 四月の観測ポイント
四月には、火星は「ふたご座」を順行してゆっくり赤緯を下げてゆくが、赤緯はまだ高く四月末でも24°N程を保っている。視直径(δ)はこの期間にδ=6.4”~5.4”と小さくなり、観測期は終わろうとしている。五月の中旬には、視直径は5秒角を下回ってしまう。日没時には既に南中を過ぎているが、沈むのは夜半頃になる。
下図には、四月中の位相や視直径の変化を図示する。視直径は5秒角台となり、シーイングも落ち着くと思われるので大口径での撮影はまだ可能と思われるが、眼視観測は難しい。位相角(ι)は37°台から少し丸みが戻る。傾き(φ)は2°N台から9°N台とだいぶ北を向いて雪線が70°N程と予想される北極冠も北縁に見えているだろう。北極冠は縮小が進んでいる期間になり、周辺での様子に興味があるが、詳しい観測は難しいであろう。季節(λ)は、λ=045°Lsから058°Lsへと進む。
同じような季節の接近だった2007/2008年の、この期間の様子は以下のリンクから参照できる。視直径は今回よりも少し大きい。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO345.pdf CMO
#345 (25 Apr. 2008), λ=046°Ls ~λ=060°Ls