CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#16
2023年五月の火星観測報告
(λ=058°Ls ~λ=072°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#528 (
♂・・・・・・ 『火星通信』に送られてきた五月中の撮影画像より今期十六回目のレポートを作成する。火星は五月には、「ふたご座」を順行して、中旬には「かに座」へ入った。日没後の西空でだいぶ目立たなくなったが、「ふたご座」を進む金星と離角を縮めていった。日没時の高度は60°ほどから月末には45°程度に低くなって、没するのは夜半前になった。視直径も五月中旬には5秒角を下回って小さくなってしまった。六月始めには火星がプレセペ星団の中を通過するのに続いて、金星も中旬には接近して北側を通過してゆく。
五月には、季節(λ)はλ=058°Lsから072°Lsまで進み、視直径(δ)は、δ=5.4”からδ=4.7”にまで減少した。
この季節には、ヘッラスの朝夕の様子や北赤道帯霧・北半球高緯度の現象などが注目されるが、小さくなってしまった火星には詳しい様子は捉えられなくなっていた。
位相角(ι)は34.4°から、月末にはι=30.5°まで戻っている。中央緯度(φ)は09°N台から、月末ではφ=16N台に北向きに大きくなって、縮小している北極冠が明るく見えている。 (黄色くマークしたところが、2023年5月の範囲)
前回2020年接近時の同じような季節の記事は、以下のリンクから辿れる。
CMO#509
(1 June~30 June 2021, λ=053°~066°Ls, δ=4.2~3.9”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/509/2020repo_20.htm
一サイクル前の同様の接近だった2007-2008年の接近時の様子(上の図の青い線)を今回の接近と比較すると、当時の視直径(δ)は、6〜5秒角程度と小さくなっているが、下記の記事が参考になる。
CMO#346
(16 Apr~15 May 2008, λ=059°~072°Ls, δ=6.3~5.3”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO346.pdf
2010年の接近時には、もう少し大きな視直径の時の観測記録が、以下のリンクで閲覧できる。
CMO#370
(16 Feb~15 Mar 2010, λ=052°~065°Ls, δ=13.3~10.7”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn5/CMO370.pdf
CMO#371
(16 Mar~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn5/CMO371.pdf
♂・・・・・・ 五月の火星面の様子
○ 火星面概況
今月も期間を通して画像を送ってくれた、メリッロ(FMl)氏の画像を日付順に並べてみた、五月中の画像で小さな像だが、シュルティス・マイヨル(Syrtis Mj)の周辺を除いて、ほぼ全面の様子が概観できる。北極冠廻りのダークフリンジの低緯度側には明帯(ギュンデスなど)も認められるが、大きな擾乱は起きていないようである。
○ シュルティス・マイヨルとヘッラス
視直径は小さくなったが、40cm級の望遠鏡ではまだ大きな模様の様子は捉えられている。次の画像では、前画像では捉えられていなかった、シュルティス・マイヨル周辺の様子と朝方からのヘッラスの様子をご覧いただく。ウトピア廻りには大きな擾乱は起きていないようである。
ヘッラスは南半球の冬至(λ=090°Ls)頃になると降霜で白く明るくなる。五月ではその前段階で、朝方では目立たないが、午前中から明るくなり始めるようである。位相角が大きく夕縁深くは見えていないが、夕方になっても夕靄混じりの明るさが認められると思う。
○ 赤道帯霧
今月も赤道帯霧(ebm: equatorial band
mist)の捉えられている画像が、カルダシス(MKd)氏により寄せられた。カラーカメラ画像なので、B光画像は無いが、夕縁からクリュセを抜けてタルシスに達する明るさが判る。赤道帯霧は、λ=060°Ls過ぎから活動が本格的になるが、今接近では視直径が小さくなりはっきり捉えられなくなっている。次回接近の観測対象である。
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May の画像には、テムペ(Tempe)からアルバ(Alba)に伸びる明部も捉えられているように思う。これも季節的な現象である。
*アルバの山岳雲に関しての参考論文は以下のものがある。
◎1995年一月のアルバの白雲活動 (051°Ls) (南 政 次)
1994/1995
Mars Note (13) − CMO #179 (25 Sept. 1996
)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/95Note13j.htm
◎2007年北半球春分に於けるアルバ・モンス周邊の氷雲 (南 政 次)
07/08
CMO Note (7) − CMO #353 (25 Dec. 2008 )
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO353.pdf
(Ser2-p1023)
◎アルバ・モンスの山岳雲の一回目の極大 (クリストフ・ペリエ)
ISMO 2011/2012 Mars Note #01 − CMO #399 (25 June 2012 )
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/399/ISMO_Note_2011_01.htm
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn4/CMO399.pdf (原文: Ser3-p0344)
また、参考となる、07/08 CMO NoteやCMO 2009/2010 Mars NoteのインデックスページのURLは下記のようになっている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2007NoteIndex.htm
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2010NoteIndex.htm
♂・・・・・・ 五月の観測報告
五月になって、寄せられた観測報告はさすがに少なくなって、五名からの24観測の報告であった。日本からの観測報告はなかったが、アジア側からはセブの阿久津氏から3観測送られてきている。観測施設の運営も軌道に乗ってきたようで、他にも多くの惑星画像が送られてきている。アメリカ大陸側からは、二名から13観測 、メリッロ(FMl)氏の継続した観測がある。ヨーロッパ側からは、二名から8観測の報告があった。南半球からは報告が入らなかった。
それぞれの画像は以下のリストのリンクから辿れる。
阿久津 富夫 (Ak)
セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak) Cebu island, The PHILIPPINES
2 Colour* +1B +1 IR
Images (14*, 16 May 2023) 36cm SCT with Neptune-C*
45cm Newtonian (F/4) with Mars-M & Neptune-C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Ak.html
マノス・カルダシス (MKd) アテネ、ギリシャ
KARDASIS, Manos (MKd)
4 Colour
Images (3, 8, 11, 12 May 2023)
36cm SCT with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MKd.html
マーチン・ルウィス (MLw)
セント・アルバンス、英国
LEWIS, Martin (MLw) St. Albans,
Hertfordshire, the UK
4 Colour Images
(1, 7, 24, 25 May 2023) 45cm
Dobsonian, with an Uranus-C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MLw.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
11 Colour
Images (1, 6, 7, 11, 16, 19, 22, 24, 26, 29, 31 May 2023) 25cm SCT with an ASI 120MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla,
1 RGB + 1
R images (2, 6 May 2023)
31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html
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♂・・・・・・ 五・六月の観測ポイント (再掲)
五月には、火星は順行して「ふたご座」から「かに座」へと移動する。視直径(δ)は
δ=5.4”~4.7”と、五月の中旬には5秒角を下回ってしまう。季節はλ=058°~072°Lsと進む。日没時には既に南中を過ぎていて、沈むのは夜半前になる。六月には1日から3日にかけて「かに座」の散開星団プレセペ(M44)の中を通過する。その後は「しし座」へと赤緯を下げてゆく。レグルスとの接近は七月11日のことである。季節はλ=072°~085°Lsと進む。視直径は六月末で、δ=4.2”まで小さくなり今接近の観測期は終わりとなる。
下図には、五・六月中の位相や視直径の変化を図示する。視直径は4秒角台となり、大口径での撮影でも詳細は捉えられなくなるだろう。傾き(φ)は9°N台から20°N台と大きく北を向いてくる。北極冠の縮小を追跡出来る季節だが、次回接近の予習となろう。季節(λ)は、六月末にはλ=085°Lsと、北半球の夏至近くまで進む。赤道帯雲の活動が活発になる季節である。
同じような季節の接近だった2007/2008年の、この期間の様子は以下のリンクから参照できる。視直径は今回よりも少し大きい。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO346.pdf CMO
#346 (25 May. 2008), λ=059°Ls ~λ=072°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO347.pdf CMO
#347(25 June 2008), λ=072°Ls ~λ=086°Ls
七月には観測期の終了となり、観測ポイントの取り上げは、今回が最後である。