CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#05
2024年七月の火星観測報告
(λ=285°Ls ~ λ=303°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#537 (
♂・・・・・・ 今観測期の五回目のレポートは、『火星通信』に寄せられた七月中の火星の画像を元に記述する。火星は七月にも足早に順行を続けて、下図のように「おひつじ座」から「おうし座」にはいり、中旬には天王星を追い越していった。20日にはプレアデスの南を通過して、月末にはヒアデスに近づいてきた。冬の星座の明るい星の多いところに入り、木星にも接近して、朝方の東の低空は賑やかだった。出は日本ではまだ夜半過ぎであったが、天文薄明が始まるまでには一時間は観測時間が取れるようになっていた。
季節(λ)はλ=285°Lsから303°Lsまで進み、南半球の夏至過ぎの 火星面だった。七月も視直径の増加は鈍く、月末でもまだ五秒角台であった(δ=5.9”)。傾き(φ)は15°Sから07°Sへと、北向きになったが、縮小の最終段階の南極冠は、火星面経度によっては、まだ小さく捉えられている。
右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。黄色くマークされているところが、このレポート期間の様子を示している。中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。
この季節の視直径の大きな時の観測報告は、2020年の接近時にあり、以下のリンクから辿れる。CMO#500には、アルシア・モンスから朝縁に伸びる長大な山岳雲の影を捉えた記事と画像かある。
* CMO#500 (1 Oct.~ 15 Oct.
2020, λ=288°~297°Ls, δ=22.4~22.2”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/500/2020repo_11.htm
* CMO#501 (16 Oct. ~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/501/2020repo_12.htm
さらに2003年の、同じ季節の観測報告は下記のリンクにあり、視直径が20秒角程の大きな期間での火星面や、縮小した南極冠の様子などが、沖縄へ観測遠征中の南氏の筆により語られている。
2003年火星課レポートのインデックスページは
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/2003repo/index03.html
(ページ中のリンクが右ウインドに開かないときには、右クリックをして ”新しいタブで開く” などで見ることが出来ます。)
* 2003年十月後半の火星面觀測 #17 CMO #282
* 2003年十一月前半の火星面觀測 #18 CMO #283
* 2003年十一月後半の火星面觀測 #19 CMO #284
♂・・・・・・ 2024年七月の火星面の様子
○
火星面概況
七月にも、フォスター氏により進められているルーチン観測は25日間に及び、南半球のジェット気流による視相の不安定にも嘆かれているが、ほぼ全周の様子が捉えられている。この期間にも大きな擾乱は発生していないようである。ギャラリーページでご覧ください。
○ 縮小を続ける南極冠の様子。
南極冠は火星面経度によって認められなくなっている経度もあるが、この期間も小さく捉えられていた。傾きはまだ南向きであったが、だんだん小さくなり南極域は見えなくなって行き、追跡は難しくなっている。南極冠は残留極冠として融け残る部分があるとされ、最終段階を捉えた近年の画像も並べてみた。λ=345°Ls頃までは確認されている。
○ 北極雲の様子
マレ・アキダリウム付近の様子を並べてみた。阿久津氏の画像は、B光像が効いていて青味が綺麗に出ている。熊森氏の31日の画像では、ドーズのスリットが出ているように思える。ダストイベント発生が予想されているクリュセ・クサンテ付近も異常は感じられない。
次には、ウトピア付近に掛かる北極雲の様子である。
中央緯度(φ)が北向きになってきたこともあり、エリシウムの北に拡がる大きな北極雲が青く明るくはっきり捉えられている。
下記のリンク記事も参考にされたい。
北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
○ ヘッラスの様子
南半球の秋分を挟んでの秋の季節には、ヘッラスが弱い活動を見せると言われている。今回は季節はまだ少し早いが、中旬からのフォスター氏の画像を並べて、夕方から東縁まで移動してゆくヘッラスの様子をご覧いただく。始めの画像だけは熊森氏の上旬のヘッラスの様子である。 ほとんどの画像でヘッラスの北西部の明るさが感じられると思う。
この期間にヘッラスの北西部に明るさがあり、南に伸びて棒状に明るく見えることは、
1990 OAA Mars Section Note (3)「1990年12月のHellas (around 345°Ls)」 CMO#113 p989~
に記事があり、バックナンバーをお持ちの方はご覧いただきたい。
ここには、模式図を含む記事の一部と、取り上げられている筆者の画像を掲載した。眼視観測のコメントには「Hellasの北部に黄色味のある明るさが判る。南側にも明部があり、二段重ねに明るい」とある。
○ アルシア・モンスの夕方の山岳雲
今回もハッキリと捉えられている画像はなかった。熊森氏の右の画像が、良い角度に思えるが、ハッキリと認められない、B光画像かほしいところである。
中央下側には、オリュムプス・モンスの輪郭がが捉えられている。
♂・・・・・・ 2024年七月の観測報告
七月の観測報告は、日本から二名、7観測。フィリッピンから一名、4観測。アメリカ側から二名、20観測。アフリカから一名、31観測。火星の赤緯が高くなったこともあり、ヨーロッパ側からもベテランの報告が入るようになった。二名より2観測。合計して、八名からの64観測であった。
ルーチン観測を続けるフォスター(CFs)氏からは25日間の報告が入っている。 阿久津氏は、メインの45cm鏡の駆動装置が故障して、観測数を減らしている。ウイルソン(TWl)氏は、この期間に望遠鏡と撮影カメラを変更している。報告数は多いが画像は処理がきつく、画質がなかなか安定しない。熊森氏は下旬になってペースを上げてきている。ピーチ(DPc)氏の画像には、使用機材の記入がなく、自宅での撮影と見て、36cmSCTとしている。
比嘉(Hg)氏からは< DVDに入ったMP4での画像が送られてきている。動画からの静止画作成の技術がなく、スナップショットで切り出した画像を載せていることをお断りしておく。
阿久津 富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak) Cebu island, The PHILIPPINES
2 Sets of RGB
+ 1 Colour# + 4 IR Images
(3*, 19, 29, 30 July 2024)
45cm Newtonian (F/4) "stopped 30cm"
& 36cm SCT* with a Mars-M & an ASI 224MC#
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER, Clyde (CFs) Khomas,
17 Sets of RGB + 25
IR Images (3~6 , 8~10, 12~29
July 2024) 25 days
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html
比嘉 保信 (Hg) 那覇市、沖縄県
HIGA,
Yasunobu (Hg)
3 Colour
images (12 July 2024) 25cm Newtonian with a Panasonic 4k video
camera
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Hg.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI,
Teruaki (Km)
Sakai, Osaka, JAPAN
4 LRGB + 4 IR
Images (6, 21, 28, 31 July 2024)
36cm SCT @ f/38 with an ASI 290MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
6 Colour
& 6 >610nm* Images (2, 8, 14, 19, 20 ,26, 27 July 2024)
25cm SCT with an ASI 120MC & a DMK 21AU618,AS*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc)
Selsey, WS, the UK
1 Colour Image
(29 JUly 2024) (36cm SCT with
an Uranus-C)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_DPc.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
1 IR
Images (31 July 2024) 53cm
Newtonian @f/15 with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_JWr.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON, Tim (TWl) Jefferson City, MO, the
10 RGB Sets + 10 IR Images (2, 7, 11, 15,
18, 19, 24*. 26~30*, 31* July 2024)
25cm Newtonian with an ASI290MM / 28cm SCT* with an ASI 678MM*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html
♂・・・・・・ 九月の火星面と観測の目安
九月には火星は「おうし座」から順行を続けて「ふたご座」へはいる。八日頃には散開星団M35の南を通過してゆく。赤緯は高くなり、出も夜半前になり観測時間は北半球では伸びて行く。視直径(δ)は九月中旬に七秒角を越えてくる。そろそろ眼視観測の開始時期になってくる。
九月の火星面の様子を以下に図示する。経度・緯度のグリッドの表示になっている。
P は、モータードライブを止めたときに火星が移動して行く方向で、南極を正確に上に向けるときに重要な値(北極方向角)で、暦表ではΠで示している。
北極方向角とは天の北極から惑星面の北極までを、反時計回りに計った値である。
季節(λ)は、λ= 321°Ls〜338°Lsと進み、傾き(φ:中央緯度)は北向きになっている。この期間に位相角(ι)は最大のι=41.5°に達する。火星面の午後の面が大きく見えているのは、N線の位置からも判断できる。
まだアルシア・モンス (Ω=121°W, 09°S)の夕方の山岳雲の活動期間(λ= 275°~λ=
340°Ls )が続いていて、B光画像での撮影が確認に重要である。
また再掲するが、北半球起源のクリュセ付近を発生源としてエオス付近に拡がり、マリネリス渓谷沿いの地形に沿って明るくなる、北半球起源の黄雲の活動期になっている(λ=310°Ls~λ=350°Ls)。季節(λ)的に今回の接近の後は観測の難しい期間にはいるために、今接近の活動の確認は大切になる。
2005 (λ= 308°Ls), 2020 (λ= 313°Ls),
2022 (λ= 309°Ls) の活動の様子は、以下のリンクから辿れる。
2005年十月後半の火星面観測 CMO#312
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO312.pdf
2020年十一月の火星観測報告 CMO#502
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/502/2020repo_13.htm
2022年九月の火星観測報告 CMO#520
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/520/2022repo_08.htm