CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#05

2022年六月の火星観測報告

 (λ=238°Ls ~λ=257°Ls)

村上 昌己・西田 昭徳

CMO #517 (10 July 2022)


・・・・・・ 今期五回目のレポートは、『火星通信』に寄せられた六月中の画像をもとに記述する。

六月に入って、熊森(Km)氏が観測をスタートさせた。プエルト・リコのモラレス(EMr)氏からも画像が入信するようになった。ヨーロッパからはまだ入信がない。サハラ砂漠の砂が飛んでいるようで透明度が悪いようである。

六月中には火星は「うお座」で順行を続けて、視赤緯を上げていった。出も午前0時台と早くなって明け方の空に昇ってきたが、木星に比べてまだ暗く薄明が始まると目立たなかった。

 

 


 

この期間に火星は、視直径(δ) δ=6.4”7.2”に大きくなった。中央緯度の傾き(φ)24.6°Sから月末には20.4°Sとだいぶ北側を向いてきたが、まだ大きく南に傾いていて、縮小が進んでいる南極冠の様子が捉えられている。位相角(ι)42°から44°に増加して、夕方側の欠けがさらに大きくなっている。季節(λ) は、λ=238°Lsから257°Lsまで進んで、南半球の夏至(λ=270°Ls)が近くなっている。黄雲発生の季節は引き続き続いていたが、大きな擾乱は観測されていない。

 

火星は六月には近日点を通過していて、軌道上の動きが速く、なかなか地球が追いつかず、彼我の距離が縮まらない。前回の接近のようには、視直径(δ)の増加は進まない。

(黄色くマークしたところが、20226月の範囲)

同じような季節の前回2020年接近時の様子は、以下のURLから参照できる。右図の様に視直径は二倍程度大きかった。

CMO #496 (10 August 2020)  λ=230°~250°Ls

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/496/2020repo_07.htm

CMO #497 (10 September 2020)  λ=250°~269°Ls

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/497/2020repo_08.htm 

 

 

・・・・・・ 六月の火星面の様子

六月中にも火星面には大きな擾乱は捉えられておらず、暗色模様は平常に見えているようである。季節はλ=240°Lsとなって、南極冠の縮小は進んで南極域高緯度の様子が捉えられている。今回もルーチン観測を続けるフォスター氏の画像から、特徴的なものを拾い上げてみる。

 

1) Thyles Collis (チュレス・コッリス)の検出。

フォスター氏は、2 June (λ=239°Ls) から4 June (λ=240°Ls) に撮影した画像で、南極冠周縁に白味の落ちる独立した明部を連日捉えた240°W, φ70°S)

このエリアは下の模式図のように、少し季節が進むと融解の進むところであり、融け残りが分離しているところが捉えられたようである。

 


これまであまり注目されることはなかったので、前回接近の同じ季節の画像をチェックすると、上の図の下段に取り上げたように、日本からの観測に該当するものが見つかった。2020年接近の時には視直径が倍ほどもあったが、今回のようにハッキリした独立した明班としては写っていない。南極冠の右側には、どの画像にもNonus Monsのしっぽが明るく写っている。

 

この明部はアントニアジの”La Planète Mars”の南極図にもThyles Collis (チュレス・コッリス)として取り上げられていて、右に引用したページの記事にもある。

{ Collis :}


 おそらく、この小さな明部を指すものと思われる。

 

 

2) Thyles Mons (チュレス・モンス)付近

 次には、少し東側のThyles Monsの様子である。Thyles Monsの東側は融解の早く進むところであり、このωからの画像では、南極冠の右半分がかけているように見えている。

 


下段の右には五月の縮小前の様子を並べた。南極冠内部には、まだ、Depressio Parva (デプレッシォ・パルバ)が暗く認められて、東側の融解はまだ進んでいない。左側は、六月末の様子である。Thyles Mons辺りはすっかり融解して、南極冠は偏芯して反対側が融け残り、この経度からの眺めでは薄平たく見えるようになってしまっている。

 

3) Mons Argenteus (モンス・アルゲンテウス) 付近

六月には、ハッキリと捉えられた画像が届かなかった。

画像を日付順に並べてみると、南極冠の縮小している様子は判るが、Mons Argenteusが、南極冠の周縁の輝点として描写される画像は得られなかった。

 


 

前回接近の時には、視直径の大きかったこともあり、下図のように、二つ玉の輝点として捉えられている。

 


 

 

4) Novus Mons (ノウォス・モンス) の様子。

 終わりにノウォス・モンスの様子を見てみると、寄せられた画像はフォスター氏のものに限られてしまう。

五月には、はっきりと分離していないが、明るく捉えられているものの、六月になると、周辺に薄明るく捉えられているだけになっている。観測期間は一ヶ月以上も離れて、季節(λ)20°も過ぎていて、間をつなぐ観測が得られていないのは残念なことである。今接近では残念ながらはっきりした消滅の時期は捉えられなかった。


 

 

・・・・・・ 六月の観測報告

観測報告は、今月もフォスター氏中心であった。メリッロ氏と熊森氏もルーチン観測をスタートさせている。以下のように六月には五人から合計32観測の報告があった。それぞれの画像はリストのリンクから辿れる。

 

  クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリ

   FOSTER, Clyde (CFs) Centurion, SOUTH AFRICA

      12 Sets of RGB + 11 IR Images  (2~4, 7, 11, 13, 14, 20, 22, 26, 28, 30 June 2022)

                                          36cm SCT with an ASI 290MM

         https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CFs.html

 

   石橋  (Is) 相模原市、神奈川県

   ISHIBASHI, Tsutomu (Is)  Sagamihara, Kanagawa, JAPAN

      1 Colour Image (28 June 2022)  31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI 290MC

         https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html

 

   熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府

   KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN

     7 LRGB Colour + 7 B + 7 IR Images (2, 8, 18, 26, 28, 29, 30 June 2022)

                                       36cm SCT @ f/37 with an ASI 290MM 

         https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Km.html

 

   フランク・メリッ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国

   MELILLO, Frank J (FMl)  Holtsville, NY, the USA

      4 Colour + 2 R*(610nm) Images (4, 5, 18, 25, 29 June 2022) 

                                     25cm SCT with an ASI120MC & DMK 21AU618.AS*

         https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html

 

   エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ 

   MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla, PUERTO RICO

      4 RGB Images (11, 14, 21, 25 June 2022)   31cm SCT with an ASI 290MM

         https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html

 

 

・・・・・・ 八月の観測ポイント

 八月には、火星は「おひつじ座」から「おうし座」へと赤緯を上げて順行する。1日には天王星の南を追い越してゆく。春から続いていた火星と他の惑星との会合の最後となる現象である。20日頃にはプレアデス星団(M45)の南を通過して、月末にはヒアデス星団に近づいて、アルデバランと赤味を競うようになる。火星の出は夜半前になり、日の出時には南中直前まで昇っている。赤緯は月末には20°Nに達して高度の出るのも早くなり、東京での南中高度は70°を越えてくる。夏のシーインクの落ち着いている期間となり眼視観測にも十分な大きさになってくる。北半球での観測が期待できる。

 


 

視直径は、八月中にはδ=8.2”~9.8”と増加してくる。季節(λ)は、λ=277°~296°Lsと動き、南半球の夏至(λ=270°Ls)過ぎの観測となる。黄雲発生の季節は続いていて監視が重要である。また、南極冠の縮小は進み最終段階になり捉えるのが難しくなる。

下図には、八月中の位相や視直径の変化を図示する。雪線(SL: Snow Line)は八月1日の図には記入してあるが、偏芯の様子は描写していないことをお断りする。その後の図には、80°S以南は白く抜けているが南極冠の様子ではない。位相角(ι)は、8月上旬に最大となり、その後は欠けが小さくなって行く。

傾きφ (中央緯度) はさらに北向きになり、極小となった南極冠の様子は捉えるのが難しくなってしまう。前回2021年接近の時にはλ=346°Ls(δ=9.5”, φ=22°S)まで認められた。今接近では、11月下旬の視直径の大きな時になるが、φ=3°Sと傾きが小さく確認は難しいかも知れない。

火星面経度(Ω)=030°W方向の、Mons Argentius付近が最後まで融け残るところとされている。

 


 アルシア雲の二度目の活動期280°Ls頃から始まるとされている。まだ夕方の様子が詳しく観測出来る時期であり、午後のアルシア雲の様子をうまく捉えて欲しい。

 

  視直径が大きい前接近の同時期の様子は、以下のリンクから参照できる。

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/498/2020repo_09.htm  CMO #498 (25 September 2020), λ=269°~279°Ls

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/499/2020repo_10.htm  CMO #499 (10 October 2020), λ=279°~288°Ls

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/500/2020repo_11.htm  CMO #500 (25 October 2020), λ=288°~297°Ls

 


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