CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#06
2022年七月の火星観測報告
(λ=257°Ls ~λ=277°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#518 (10 Augut 2022)
♂・・・・・・『火星通信』に寄せられた七月中の画像より、今期六回目のレポートを纏める。六月末には関東などでは早い梅雨明け宣言が出たが、七月中旬には曇天傾向が続いて梅雨空が戻ったようで観測は捗らなかった。天候は下旬には回復して石橋(Is)氏も観測態勢に入った。これまでコンスタントに画像を送ってくれていたフォスター(CFs)氏からは三日以後の入信が途絶えてしまった。ほかのサイトでも惑星の入信画像はなく、体調を悪くしたのではと少し心配である。アメリカ大陸側のメリッロ(FMl)氏とモラレス(EMr)氏は、定期的仁観測を続けているようである。下旬の画像がスウェーデンのワレッル(JWr)氏から入信するようになり、フォスター氏の経度の様子を補ってくれるようになった。
七月中には火星は「うお座」から「おひつじ座」へ順行して、視赤緯は10゚Nを上まわっていった。出も夜半より早くなって明け方の空にだいぶ高く昇って来るようになった。月末には下図のように天王星に近づいていった。最接近は八月1日のことであった。
この期間に火星は、視直径(δ)が δ=7.2”〜8.2”と8秒角を越えて眼視観測にも十分な大きさになってきた。傾き(φ)は、中央緯度が20°Sから月末には14°Sとだいぶ北側を向いてきて、縮小が進んで偏芯している南極冠の様子は火星面経度によってだいぶ違うようになっている。位相角(ι)は44°から46°に増加して、ほぼ最大となって、夕方の北半球側の欠けが大きくなっている。季節(λ) は、λ=257°Lsから277°Lsまで進んで、南半球の夏至(λ=270°Ls)を21 Julyに過ぎている。この期間も黄雲発生の季節は続いていたが、大きな擾乱は観測されていない。
火星は七月にも、彼我の距離が縮まらず、視直径(δ)は月末でやっと8秒角に達したところである。前回の接近では、この季節(λ=Ls値)には、倍の16秒角以上もあったことが右図から判ると思う。
(黄色くマークしたところが、2022年7月の範囲)
同じような季節の前回2020年接近時の様子は、以下のURLから参照できる。
CMO #497 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/497/2020repo_08.htm
CMO #498 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/498/2020repo_09.htm
♂・・・・・・ 七月の火星面の様子
七月中の火星面はフォスター氏の不振から稠密なタイミングで画像が得られなくなっている。中旬に日本で曇天傾向が続いたことも大きい。この期間にも黄雲発生の季節は続いていて、報告画像は少ないが、大きな擾乱は捉えられておらず、暗色模様は平常に見えているようである。この期間に消滅があったと考えられる、Novus Mons (ノゥオス・モンス)の様子だけ取り上げておく。
Novus
Monsの様子
季節は、南半球の夏至(λ=270°Ls)となって、南極冠の縮小は進んでいるが、南極冠周辺の様子を捉えた画像は少なく、Novus Monsの消長も詳しく捉えられなかった。下図は今年得られた画像と同じLsで似たような経度(ω)の2020年接近の時の画像を比較した物で、下段が2020年の画像になる。視直径(δ)の違いによる描写の差は大きい。Novus Monsもフォスター氏の今年の画像では白みが感じられるが、熊森氏の画像では明るさが感じられるだけである。
2020年の接近のCMO#498のレポートでは、「白みが残っているのは、6 Sept (λ=273°Ls)の、ゴルチンスキー氏(PGc)の観測までで、10 Sept (λ=275°Ls)の、熊森氏(Km)の観測では明るさはあるが白みはなくなっている。この頃を今接近でのNovus Monsの消滅時期としたい。」としている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/498/2020repo_09.htm
Novus Monsの消滅までに関しては、下記の論攷を参照されたい。
CMO 2005 Mars Note (10) "Remnant” Novus Montis 「ノウォス・モンスの殘照」 CMO #327
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO327.pdf
♂・・・・・・ 七月の観測報告
観測報告は、フォスター氏が月初めまでの報告で途切れてしまった。メリッロ氏とモラレス氏からは定期的な報告が入るが数は多くない。ルーチン観測をスタートさせている熊森氏は中旬の天候の悪さで観測数は伸びなかった。下旬になって、石橋氏とスウェーデンのワッレル氏から観測報告が入り始めている。七月には七人から合計31観測の報告があった。それぞれの画像はリストのリンクから辿れる。
クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリカ
FOSTER,
3 Sets of RGB +
3 IR Images (1~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CFs.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is)
5 Colour + 2B
Images (1, 22, 27, 29,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI,
Teruaki (Km)
6 LRGB Colour
+ 6 B + 6 IR Images (6, 20, 23, 25, 27,
36cm SCT @ f/37 with an ASI 290MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl)
ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
3 Colour
+ 4 R*(610nm) Images (1, 4, 10,
25cm SCT with an ASI120MC & DMK
21AU618.AS*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES
RIVERA, Efrain (EMr)
6 RGB + 3
IR Images (1, 6, 9, 11, 16, 23,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA,
Michael (MRs) Friars Hill, WV, the
1 Drawing (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MRs.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby Observatory,
3 Colour
+ 3 IR Images (20, 28,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_JWr.html
♂・・・・・・ 九月の観測ポイント
九月には、火星は「おうし座」を順行する。赤緯が20°Nを越えて上旬にはヒアデス星団の北を通過して行き、アルデバランとの競演が見頃になる。火星の出は夜半前早くになり、日の出時には南中を過ぎているようになる。南中高度は東京では75°を越えてくる。「西矩」は、8月16日(赤径)、8月27日(黄経)の事であった。
季節(λ)は、λ=296°~313°Lsとすすみ、前回の接近で、クリュセにダストイベントが発生した時期(λ=313°Ls)となる。前駆の現象はλ=300°Ls頃から始まっていたようで、この時期からのマレ・アキダリウム付近の監視が重要である。視直径(δ)は、九月上旬には10秒角を越えて、月末にはδ=11.9”と大きくなってくる。また、南極冠は縮小の最終段階になるが、傾き(φ)は、φ=6.3°S~0.9°Sとごく小さくなってしまい南縁は見え難くなってしまうと思われる。今接近では最終段階の確認は難しそうである。
下図には、九月中の位相や視直径の変化を図示する。雪線は記入しておらず、南極冠の偏芯の様子も描写していないことをお断りする。自転軸の北極方向角は大きく、極冠が見え難くなっているときの位置取りは難しい。火星の進行方向(p)から自転軸の方向を見極めることが大切である。北極は冬至 (λ=270°Ls)過ぎで、欠けの中にあることを意識してほしい。位相角(ι)の減少が進んで、欠けはどんどん小さくなって行く。接近期の始まりである。
今後はアルシア雲の午後の山岳雲の活動が見られるようになる。短波長域での観測ではっきり捉えられる現象で、是非フィルターワークを駆使してほしい。朝縁・夕縁の靄の様子や、始まりつつある赤道帯霧の活動などが捉えられる。
九月には季節(λ)は、λ=296〜313°Lsと移ってゆく、視直径が大きい前接近の同時期の様子は、以下のリンクから参照できる。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/500/2020repo_11.htm CMO
#500 (25 October 2020), λ=288°~297°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/501/2020repo_12.htm CMO
#501 (10 November 2020), λ=297° ~λ=307°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/502/2020repo_13.htm CMO
#502 (10 December 2020), λ=307° ~λ=324°Ls