CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#04
2024年六月の火星観測報告
(λ=266°Ls ~ λ=285°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#536 (
♂・・・・・・ 『火星通信』に送られてきた六月中の火星の画像より、今観測期の四回目のレポートを作成する。火星は六月には順行を続けて、下図のように「うお座」から「おひつじ座」にはいり赤緯を上げてきた。火星の出は日本では午前1時台になっていったが、夏至前の日の出は早く、火星の高度が出る前に薄明が始まっていた。
季節(λ)はλ=266°Lsから285°Lsまで進み、南半球の夏至(λ=270°Ls)には 7 June GMTに到達した。視直径(δ)の増加は六月も鈍く、δ=5.0”から、月末にδ=5.4”に、少し大きくなっただけであった。
傾き(φ)は22°Sから15°Sへと、だいぶ北向きになったが、南極側はまだ見えていて、縮小してゆく南極冠は捉えられている。
右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。黄色くマークされているところが、このレポート期間の様子を示している。中央緯度は緑色の点線で示している。
この季節の視直径の大きな時の観測報告は、2020年の接近時にあり、以下のリンクから辿れる。
* CMO#498 (1 Sept.~ 15
Sept. 2020, λ=269°~279°Ls, δ=18.9~21.0”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/498/2020repo_09.htm
* CMO#499 (16 Sept. ~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/499/2020repo_10.htm
さらに2003年の、同じ季節の観測報告は下記のリンクにあり、視直径が20秒角程の大きな期間での火星面や、縮小した南極冠の様子などが、沖縄へ観測遠征中の南氏の筆により語られている。
2003年火星課レポートのインデックスページは
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/2003repo/index03.html
(ページ中のリンクが右ウインドに開かないときには、右クリックをして ”新しいタブで開く” などで見ることが出来ます。)
* 2003年九月後半の火星面觀測
CMO #280 (16 Septenber ~ 30 Septenber 2003, λ=262°Ls ~ 270°Ls, δ=23.4
~ 20.9")
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/280OAAj/index.htm
* 2003年十月前半の火星面觀測
CMO #281 (1 October ~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/281OAAj/index.htm
* 2003年十月後半の火星面觀測
CMO #282 (16 October ~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/282OAAj/index.htm
♂・・・・・・ 2024年六月の火星面の様子
○
火星面概況
六月になって、フォスター氏と阿久津氏により進められているルーチン観測の他に、熊森氏、メリッロ氏に加えて、ウィルソン(TWl)氏の画像が入信するようになった。今回も火星面経度を追って上・中・下旬と三段に並べてみた。視直径がまだ小さく、バーローを使用していないメリッロ氏の画像は150%拡大してある。
上旬は画像が少なく揃わなかったが、中旬からは並べて比較できるようになっている。この期間の偏芯して縮小している南極冠の様子を示したかったが、小さな像では難しかった。また、RGBのセット画像でも、アルシア・モンスの午後の山岳雲の活動を捉えたB光画像は見られなかった。
○
ノウォス・モンス
ノウォス・モンス(Novus Mons)の消滅はλ=280°Ls頃とされていて、今接近では小さな視直径ながらフォスター氏の画像に、南極冠の外側の明部として捉えられている。明るさは少なく融け残りの部分であると思われる。同じλで視直径の大きな時の画像が2005年の観測から画像が見つかり、ωも同じで比較が出来た。2005年の画像では、南極冠の廻りに南極冠の融けたところが少し明るい色調で確認できる。
詳しい記述は、先月も取り上げたが、下記のリンクを参照されたい。
ノウォス・モンスの殘照 [CMO 2005 Mars Note
(10)] CMO #327
" "Remnant"
Novus Montis"
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO327.pdf
○ 北極雲の様子
マレ・アキダリウムを捉えた良い画像をなかなか見ることが出来なかったが、中央緯度(φ)も少し北向きになってきた月末近くになり、阿久津氏が撮影した画像に、マレ・アキダリウムに掛かる北極雲が青く明るくはっきり捉えられた。北半球の冬至(λ=270°Ls)も過ぎて、これからは活動が活発になってくる時期になっている。
今後の接近期でも北半球の観測に適している期間になってくるので、北極雲の発達と晴れ上がり、出現する北極冠と周辺の観測などがテーマになる。活動の目安の λ= 310°Lsに達するのは今年八月のことで、視直径(δ)は6.1”、傾き(φ)も3°Sと北向きになっている。マレ・アキダリウムやウトピア付近の北極雲の活動に注意を払っていただきたい。
下記のリンク記事も参考にされたい。
北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
♂・・・・・・ 2024年六月の観測報告
六月の観測報告は、日本から一名、3観測。フィリッピンから一名、15観測。アメリカ側から二名、15観測。アフリカから一名、17観測。合計して、五名からの50観測であった。モンタナのウィルソン (TWl) 氏からの観測が入りはじめた。
阿久津 富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak) Cebu island, The PHILIPPINES
9 Sets of RGB
+ 4 Colour# + 1R +1G+
1B + 16 IR Images
(2, 3, 7~10, 12, 14, 17, 19, 21, 27*~29* June 2024)
45cm Newtonian (F/4) "stopped 30cm"
& 36cm SCT* with a Mars-M & an ASI 071MC#
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER, Clyde (CFs) Khomas,
13 Sets of RGB + 16
IR Images (5, 9, 12~ 14, 17,
18, 20~23, 25, 27, 28, 30 June 2024)
16 days
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai,
Osaka, JAPAN
2 LRGB + 3 IR
Images (7, 13, 18 June 2024) 36cm SCT @ f/38 with an ASI 290MM
& ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
5 Colour
& 6 >610nm* Images (10, 16, 19,20 ,25, 28 June 2024)
25cm SCT with an ASI 120MC & a DMK 21AU618,AS*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON,
Tim (TWl) Jefferson City, MO, the
6 RGB Sets + 6 IR Images (12, 13, 19, 20,
24, 27 June 2024) 36cm SCT with an
ASI290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html
♂・・・・・・ 八月の火星面と観測の目安
八月には火星は「おうし座」で順行を続けて木星に近づいて行く。「おうし座」の明るい星々との競演で朝方の空が賑やかになる。木星との「合」は八月半ばにおきる。最接近は、14Aug. 15h22m GMT
(黄経合: 15Aug. 00h22m
JST)のことで、離角は18分角で木星の北を追い抜いてゆく。赤緯も20°Nを越えて、出も午前一時台となり、夜半過ぎの観測時間は北半球では夏至を過ぎたこともあり伸びて行く。
八月の火星面の様子を以下に図示する。経度・緯度のグリッドの表示になっている。経度方向の破線が二本見えているがM線とN線である。この交点が太陽直下点となる。M線とN線に関しての説明は、下記のリンクにある。
CMO/ISMO #441 Forthcoming 2016
Mars (#04)
「経緯度図と視直径 Part I.」 南 政次・西田 昭徳
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/441/441_FC2016_04.htm
CMO/ISMO #448 Forthcoming 2016
Mars (#09)
「経緯度図と視直径 Part U.」村上昌己
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/448/448_FC2016_09.htm
季節(λ)は、λ= 304°Ls〜321°Lsと進み、視直径(δ)は八月上旬に六秒角に達する。傾き(φ:中央緯度)は下旬には北向きになり、南極域は見えなくなる。北極もまだ欠けの中で、北縁には北極雲が青く明るく見えている時期になる。位相角(ι)も大きく、火星面の午後の面が大きく見えている。まだアルシア・モンス (Ω=121°W, 09°S)の夕方の山岳雲の活動期間(λ= 275°~λ=
340°Ls )が続いていて、B光画像での撮影が確認に重要である。
アルシアの山岳雲活動に関しては、下記のリンクを参照されたい。
「2005年のアルシア夕雲」
" The Arsia Evening Cloud in
2005" CMO #321 (25 July
2006 )
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO321.pdf
また、先月も取り上げたが、北半球起源のクリュセ付近を発生源としてエオス付近に拡がり、渓谷沿いの地形に沿って明るくなる、北半球起源の黄雲の活動期(λ=310°Ls~λ=350°Ls)になっている。季節(λ)的に今回の接近の後は観測の難しい期間にはいるために、今接近の活動の確認は大切になる。
2005 (λ= 308°Ls), 2020 (λ= 313°Ls),
2022 (λ= 309°Ls) の活動の様子は、以下のリンクから辿れる。
2005年十月後半の火星面観測 CMO#312
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO312.pdf
2020年十一月の火星観測報告 CMO#502
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/502/2020repo_13.htm
2022年九月の火星観測報告 CMO#520
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/520/2022repo_08.htm