CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#07
2022年八月の火星観測報告
(λ=277°Ls ~λ=296°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#519 (
♂・・・・・・ 今期七回目のレポートは、『火星通信』に報告のあった八月中の画像より纏める。八月中は、日本では天候の良かったのは上旬だけで、台風八号の通過後は寒気の南下もあって、東北から日本海側に前線の停滞傾向が続いて観測は捗らなかった。関東では曇天傾向は下旬まで続いて朝方の惑星の観測はほとんど出来なかった。
アメリカ大陸側では、ゴルチンスキー(PGc)氏が中旬からウィルソン(TWl)氏が下旬からルーチン観測を始めている。ヨーロッパからの報告はまだ少ないが入信は始まっている。フォスター(CFs)氏からは七月始め以降の観測の入信は途絶えてしまった。南半球からの報告は入っていない。
八月には火星は「おひつじ座」で天王星を追い越して、「おうし座」へ入り、中旬にはプレアデス星団の南を通過して、月末には視赤緯は20゚Nを上まわっていった。夜半前には東の空に出るようになって、日の出時の南中も近くなった。「西矩」は八月27日(黄経)、八月16日(赤径)の事であった。
この期間の火星は、季節(λ) はλ=277°Lsから295°Lsまで進んで、ダストイベント発生の季節は続いていたが、大きな擾乱は観測されていない。視直径(δ)が δ=8.3”〜9.7”と大きくなり10秒角間近になってきた。傾き(φ)は、中央緯度が14°Sから月末には06°Sと北側を向いてきて、火星を正面から見るようになって、小さくなった南極冠の様子は捉えるのが難しくなってきた。位相角(ι)は46°台で中旬に最大となり、下旬には45°台に戻っている。夕方の北半球側の欠けがまだ大きく午前側の見え方は小さい。
火星は八月にも、視直径(δ)の増加は緩やかで、前回接近の時の同じ季節(λ=Ls値)には、最大の22.6秒角に達していたが、今回はまだ10秒角にも届いていなかった。
(黄色くマークしたところが、2022年8月の範囲)
同じような季節の前回2020年接近時の様子は、以下のURLから参照できる。
CMO #498 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/498/2020repo_09.htm
CMO #499 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/499/2020repo_10.htm
CMO #500 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/500/2020repo_11.htm
♂・・・・・・ 八月の火星面の様子
この期間、前回の接近では最接近の期間が含まれて、大きな視直径での観測が出来た。傾きも南向きで小さくなった南極冠の様子が観測された。夕方の欠け際の地形の凹凸等も捉えられたが、今年はまだ10秒角に届かない視直径のこともあり詳しい様子は見られなかった。
○ 南極冠の様子
季節は、南半球の夏至(λ=270°Ls)を既に過ぎて、南極冠の縮小と偏芯が進んでいて、火星面中央経度(ω)により、見え方が違ってくる。下図は画像を同じ様な火星面中央経度で並べて比較した図で、上旬から中旬・下旬の画像を並べてある。画像の大きさは調整してある。傾き(φ)が小さくなり南極域は見え難くなっている。
南極冠が偏芯して縮小して融け残るところは、アルギュレ(Argyre)の南で、下旬でも小さく認められている。早く融けてしまうところは、マレ・キムメリウム(M.Cimmerium)の南で、上旬には白さが感じられるが、下旬では靄っているような明るさが感じられるだけになっている。
○ 北極雲の様子
次に、北極雲の様子を見てみる。上の画像と重複するものも多いが、マレ・アキダリウム(M Acidalium) に懸かる北極雲が顕著で、上旬にはアメリカ側から、下旬にはヨーロッパ側から捉えられている。ドーズのスリットの感じられる画像はまだ出ていない。中旬のアメリカ側の画像にはウトピア(Utopia)付近にも懸かっているのが認められている。マレ・アキダリウム周辺では、今後はダストイベントの発生する季節に入り、北極雲ばかりでなく監視が必要になっている。
○
アルシア・モンスの山岳雲の様子
アルシア・モンス(Arsia Mons)に懸かる夕方の山岳雲は、オリュムプス・モンス(Olympus Mons)と同様の季節での活動のほかに、λ=270°Ls過ぎから第二の活動が始まるとされている。ピークは、λ=300°Ls過ぎとなる。八月の観測にも幾例かが捉えられているのでご覧いただく。
八月前半には、まだ弱い活動だが日本からの観測に捉えられている。熊森(Km)氏のLRGB画像には、夕縁に廻ったオリュムプス・モンス(Olympus Mons)の影が暗斑ではっきり認められる。月末にはアメリカ側からの画像に捉えられるようになり、ウイルソン(TWl)氏のB光画像には明るさが夕縁のシュリア(Syria Planum)方向にも拡がっている。ほかにも北極雲や朝縁の明るさも捉えられている。
このように、カラー合成画像には、元になったB光を含む単色光画像の添付が重要である。カラーカム中心の時代になって、フィルターワークが重視されなくなっていて、このような現象をハッキリと捉えることが出来なくなってしまっているのは残念なことである。
図の中の MLTはアルシア・モンスの観測時の火星面地方時である。15:00過ぎから確認されているとおもわれる。
アルシア・モンスの夕方の山岳雲に関しては下記の記述が参考となる。
* 「2005年のアルシア夕雲」 “The Arsia Evening Cloud in 2005”
[CMO 2005 Mars Note (4)] CMO #321 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO321.pdf (p0417-)
♂・・・・・・ 八月の観測報告
観測報告は、天候不順だった日本からの観測はごく少なくなっている。アメリカ大陸側からはメリッロ(FMl)氏とモラレス(EMr)氏に加えて、ゴルチンスキー(PGc)氏、ウイルソン(TWl)氏がルーチンワークに入って充実してきた。ヨーロッパ側からも、スゥエーデンのワレッル(JWr)氏に加えて、ギリシャのカルダノス(MKd)氏からの報告があった。フランスのデュポン(XDp)氏は今接近からの新しい報告者である。南半球からの報告はなく、フォスター氏からの報告は七月初めまでで途絶えたままである。
八月には11人から合計46観測の報告があった。森田(Mo)氏の追加報告が含まれる。それぞれの画像は以下のリストのリンクから辿れる。
ザビエル・デュポン (XDp) サン・ロック、フランス
DUPONT, Xavier (XDp) Saint-Roch, FRANCE
1 RGB Colour
+ 1 R Images (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_XDp.html
ペーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc)
9 Sets of RGB
+ 10 IR images (7, 14~16, 21, 24, 25, 27,
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_PGc.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is)
2 Colour + 1 B
Images (2, 10* August 2022)
31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI 290MC & ASI 162MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html
マノス・カルダシス (MKd) アテネ、ギリシャ
KARDASIS,
Manos (MKd)
2 Colour Images
(20,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MKd.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI,
Teruaki (Km)
3 LRGB Colour
+ 3 B + 3 IR Images (1, 8,
36cm SCT @ f/37 with an ASI 290MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl)
ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
3 Colour
+ 2 R*(610nm) Images (4, 14, 19,
25cm SCT with an ASI 120MC &
DMK 21AU618.AS*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES
RIVERA, Efrain (EMr)
4 RGB
Images (5, 6, 8,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html
森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県
MORITA,
Yukio (Mo)
Hatsuka-ichi,
2 Sets of LRGB
Images (5,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Mo.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA,
Michael (MRs) Friars Hill, WV, the
1 Drawing (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MRs.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
1 Colour
+ 1 IR Images (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_JWr.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
7 RGB Sets + 1 B + 7 IR Images
(22~26, 29,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_TWl.html
追加報告
森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県
MORITA,
Yukio (Mo)
Hatsuka-ichi,
6 Sets of LRGB
Images (3, 27 May; 1, 8, 11 June;
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Mo.html
♂・・・・・・ 十月の観測ポイント
十月には、火星は「おうし座」の角の間を順行する。中旬にはカニ星雲(M1)の北を通過してゆく。日々の動きは遅くなり、十月30日
10:54 UTC (赤径・黄経共に)
に「留」となり、逆行に移り接近してくる。
下図には、十月中の位相や視直径の変化を図示する。自転軸の北極方向角はまだ大きく、極冠が見え難くなっているときの位置取りは難しい。火星の進行方向(p)から自転軸の方向を見極めることが大切である。北極は冬至
(λ=270°Ls)過ぎで、春分
(λ=360°Ls) までは欠けの中にあることを意識してほしい。位相角(ι)は40°を下回り「留」のあとは欠けはどんどん小さくなって行く。
ここでは図の中の点線で示した、m線・n線についての説明をしておく。m線は、火星面と蔭の部分の交点を結ぶ直角大円の昼側の頂点を通る線、言い換えれば太陽が照らしている火星面の太陽が南中している地点を結ぶ大円の線である。n線は火星地方時で正午の経度線である。左側が午後の領域となる。衝前の欠けの大きな時には午前の領域がほとんど見えていないことが判る。
m線とn線の交点が太陽直下点(Sub-Solar
Point)で、その地点では太陽が天頂にある。地球同様に春分・秋分の時には火星の赤道上に位置する。
十月には季節(λ)は、λ=314°~331°Lsとすすみ、視直径(δ)は、δ=12.0”から15.1”まで大きくなる。また、南極冠は縮小の最終段階になるが、傾き(φ)は、十月中には、ごく小さいが北向きになって、南極は見えなくなってしまう。反して、北半球は高緯度までが見えるようになり、活動的になっている北極雲の様子が捉えられることとなる。
この期間には、過去にもクリュセ(Chryse)やエオス(Eos)付近で黄雲の発生が起きることが多く、前接近の2020年にクリュセ付近でダストイベントが発生したのが
λ=313°Lsであった。先駆的にマレ・アキダリウム周辺でダストの活動が見られていて、今接近でも要注意である。記事は下記のCMO
#502のリンクから辿ることが出来る。
マレ・アキダリウムに懸かる北極雲の様子も面白く、この期間には「ドーズのスリット」と我々が呼ぶ、北極雲に横に切れ目の出来るの現象が観測されることがある。
アルシア雲の午後の山岳雲の活動は落ち着いてくると思われる。短波長域での観測ではっきり捉えられる現象で、是非B光でのフィルターワークを駆使してほしい。
視直径が大きい前接近の同時期の様子は、以下のリンクから参照できる。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/502/2020repo_13.htm CMO
#502 (10 December 2020), λ=307° ~λ=324°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/503/2020repo_14.htm CMO
#503 (10 January 2021), λ=324° ~λ=341°Ls