–Forthcoming 2018 Mars (#01)

2018年大接近の火星 (I)

村上 昌己

CMO/ISMO #463 (10 November 2017)


 

1. 概 況

 

 待望の2003年以来の大接近が来年に迫った。メーウスの接近表によると最接近は731日で、視直径は24.3秒角に達する。2003年の25秒角には届かないものの、2020年の22.6秒角の接近と視直径が20秒角を越えるペアの大接近である。(1)

 


 

1

 

  大接近は15年乃至17年ごとに起こるというのはよく知られたことで、一定して15年でも17年でもないのは惑星の軌道周期の比がお互い有理数で表せないないからである。少し煩わしいが、過去二百数十年、未来数十年にわたって15年間隔と17年間隔がどのように分布されているか、煩雑だが見てみよう。未来2050年の大接近は最高視直徑δMax25.02"でなかなかの大接近だが、その前は15年前の2035年に起こる。間隔が15年である場合はNと記すことにし、2050N2035と記すことにする。すると2018年の大接近は17年ぶりになるから2050N2035P2018と書ける。かくて、2003年の大接近以前も含めて

 

  2082N2067P2050N2035P2018N2003N1988P1971N1956P1939N1924N1909P1892N1877P1860N1845N1830P1813N1798P1781N1766N1751 

 

などの羅列が得られる。N年間隔とP年間隔の分布は見たところ單純ではない。ここで上下に二重線を引いた年は最高視直徑δMax25秒角を越えた年、普通の下線を引いた例は最高視直徑δMax24秒角を越えなかった年である。なお、2000年代に25秒角を越える年が1900年代、1800年代に比べて多いが、1924年、2003年大接近の79年回帰は2082年に當たる。2050年大接近(δMax=25.02")1971年大接近(δMax=24.9")79年回帰である。

 

 

なお、79年回帰については次の文獻を見られたい。実際、15年回帰や17年回帰に比べて、79年回帰はより精度がよいし、更に205年ごとに訪れる接近は更にもっと似た回帰を齎すことが手短く述べられている。

  http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/Cahier03.htm

 

ちなみに79年回帰を採ると2018年に似た接近は近いところでは1939年に起きているし、205年周期を採用すれば1813年の火星になる。然し1813年となると資料が少ない。前者1939年はスライファーが南アに出張した年で、貴重な写真が幾つか残されているので参考になる。なお、変則2050年大接近の79年回帰は既に述べたが、205年回帰は1845(δMax=25.09")に當たる。逆にスキアパレルリ観測の1877年の205年回帰は2082年に當たる。

 

 

 

 

 次に軌道図を示し2018年に於ける、太陽・地球との相対位置を表す。今回は火星の近日点(perihelion)より手前で起きる接近である。2020年には近日点過ぎの、106 (λ=291°Ls)に最接近となる。(2)

 


 

2

 

 

2.

 

 2018年初めからの星座間移動図を示す。接近時には「やぎ座」でループを描くように動き、最接近時の赤緯は26°Sと黄道より離れて南に低くなり、北半球の観測者からの南中時の地平高度は低い。今回の接近でも、南半球の観測者の条件が良い接近となる。(3)

 


 

3

 

 

3.

 

  主な惑星現象は以下のようになる。

 

             2018

  西矩     24 Mar    (λ=149°Ls, δ= 8.0")

        28 June     (λ=202°Ls, δ=20.4")  14h TD

     27 July     (λ=219°Ls, δ=24.2") 05h TD

 最接近   31 July     (λ=222°Ls, δ=24.3") 08h TD 0.385 AU

         28 Aug    (λ=239°Ls, δ=21.4")   10h

 東矩      3 Dec     (λ=300°Ls, δ= 9.1")

 

  ) 西矩・東矩は離角(Elongation)90゚になる日付を示す。赤径の離角ではない。

 

 

 視直径δ10"を越える期間の南半球の春分(λ=180°Ls)前から夏至(λ=270°Ls)過ぎまでが2018年接近の観測範囲となり、中央緯度φは視直径の大きな期間は常に南向きで、南半球の夏期の観測に適した接近である。(4)

 


 

4

また

  8秒角より大きな期間は、25 March 2018 (149°Ls)〜 22 December 2018 (311°Ls)の約9ヶ月間。

 15秒角より大きな期間は、30 May 2018 (184°Ls)〜 7 October    2018 (264°Ls)の約4ヶ月間。

 20秒角より大きな期間は、26 June 2018 (200°Ls)〜 6 September  2018 (245°Ls)73日間。

となる。

 

 

2018接近の火星の二分二至は、次のようになっている。

 

 λ   日 付    北半球   南半球

090°Ls  2017 Nov 18   夏至       冬至      (δ= 4.1", φ=23°N)

180°Ls 2018 May 18   秋分       春分      (δ=13.7", φ=14°S)

270°Ls  2018 Oct 15   冬至       夏至      (δ=13.8", φ=17°S)

360°Ls 2019 Mar 22   春分        秋分      (δ= 4.8", φ=13°S)

 

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.

 


1) 観測前期 201711月〜20183 (λ=082°Lsλ=152°Ls)

 近年の惑星撮影用のCMOSカメラの性能向上で、前回の接近では視直径4秒角台でも条件が整えば火星面が捉えられるようになっている。北半球では季節が冬に向かい、観測時間が明け方となり条件は厳しいが、201711月から撮影を始めてみよう。この期間の1118日にλ=090°Lsに達して火星北半球の夏至となる。

 



2017年11月から2018年3月末までの視直径と位相の変化

 


201711

 1 ( λ=082°Ls, δ=3.9", φ=25°N, ι=19°) には明け方の「おとめ座」にあり、太陽との離角は33度となっている。日本からは火星の出は午前4時頃で、日の出時の高度は30度程に達する。東の低空には外合へ向かう金星が見えている。傾きφは大きく北を向いていて、夏至前の北半球高緯度が見えている。18日には北半球の夏至λ=090°Lsとなり、残留北極冠がこちらを向いている。28日にはスピカの北3度を通過して行く (δ=4.2", 1.7)

 

201712

1 ( λ=095°Ls, δ=4.2", φ=22°N, ι=24°) には太陽との離角は44度になる。日の出時の高度は40度程になり、「てんびん座」の木星に近づいてゆく。傾きφはまだ大きく北を向いていて、最大になっている南極雲/冠の確認は難しいが、アクティブになっているヘッラスの明るさは捉えられると思う。赤道帯霧は弱まっているが、北半球の午後の山岳雲は活動が活発になっていて、視直径δ4秒角を越えていることもあり、描写されるようになってくると思われる。北極域もこちらを向いていて、小さくなった北極冠と周辺の現象にも注意が必要である。

 

20181

1 (λ=109°Ls, δ=4.8", φ=16°N, ι=30°) には「てんびん座」にあって太陽との離角は中旬には60度を越えてくる。赤緯が下がって北半球では、出の時刻は午前3時頃とあまり早くならないが、日の出までには四時間ほどあり、高度は出ないものの観測時間は取れるようになる。7日には木星の南約10分角に接近して、望遠鏡の低倍率の同視野に見える (δ=4.9", 1.4)。位相角ι30°以上になり、夕方の欠けが大きく火星面午後中心の観測になる。引き続きヘッラスの明るさのふるまいと北半球の山岳雲の午後の活動の確認が観測の目標となる。

 

20182

1 ( λ=123°Ls, δ=5.6", φ=08°N, ι=35°) には「さそり座」に入り、出は午前2時頃になっている。9日にアンタレスの北 5度を通過する (δ=5.9", 1.1)。傾きφはだいぶ南向きになったが、まだ北極域が見えていて、北極冠周辺のマレ・アキダリウムやウトピア付近ににサイクロンが見られる季節となってきている (λ=120°Ls145°Ls)。北半球の山岳雲の活動はまだ活発である。南半球ではヘッラスがまだ明るさを保っている。南極雲/冠は最大径になったが、まだ傾きは北向きで視直径δも不足していて南縁に認められるのは難しいと思われる。

 

20183

1 (λ=137°Ls, δ=6.7", φ=01°N, ι=38°) には「へびつかい座」南部から「いて座」に入る。北半球では赤緯が下がって地平高度が低く条件が悪くなって行く。夜半過ぎには出るようになるがまだ南中は日の出すぎで「西矩」となるのは24日のことである。傾きφは下旬には南向きになり、南極域がはっきり捉えられるようになる。南極冠の雪線は55°S付近であろう。19日には M8 (干潟星雲) M20 (三裂星雲)の間を通過してゆく (δ=7.6", +0.5)41日には (λ=152°Ls, δ=8.5",φ=06°S, ι=41°)となる。


 


接近前半の星座間の動き

 


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南極冠とヘッラスに関して

 

たかがヘッラス、されどヘッラス(1995年のヘッラスはいつ明るくなったか)

1994/1995 Mars Note (10)  CMO #174 ( 25 April 1996 )

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/95Note10j.htm

 

ヘッラス盆地の冬の様相

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/410/ISMO_Note_2011_13.htm

 

2014年の冬期のヘッラス

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/435/ISMO_Note_2014_08.htm

 

秋冬の南極冠 CMO#353 p1021

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO353.pdf

 

2001 年の火星(6) 南極冠の生成と北半球の夏

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/coming2001/0106/06j.html

 

 

山岳雲に関して

 

北半球の晩春のタルシス山岳雲の傾向 ISMO 2011/2012 Mars Note #08

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/406/ISMO_Note_2011_08.htm

 

オリュムプス・モンス、タルシス山系の白雲の動向

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/433/ISMO_Note_2014_06.htm

 

アルバ・モンスの山岳雲の一回目の極大 ISMO 2011/2012 Mars Note #01

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/399/ISMO_Note_2011_01.htm

 

2014年でのエリュシウム・モンス雲の動向 ISMO 2013/14 Mars Note (#07)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/434/ISMO_Note_2014_07.htm

 

 

北極冠と周辺現象に関して

 

ω=170°Wω=180°Wの窓から見た λ=054°Ls(2012) λ=141°Ls(2014)

に観測された北極冠形状の推移 ISMO 2013/14 Mars Note (#04)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/431/ISMO_Note_2014_04.htm

 

北半球初夏のプレ北極域渦状白雲 ISMO 2011/2012 Mars Note #15

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/412/ISMO_Note_2011_15.htm

 

1999年のバルチアのサイクロンは2014年に再現するか? Forthcoming 13/14 Mars (5)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/416/Mn_416.htm

 

火星北半球の夏期の雲を伴う前線活動:概説 ISMO 2013/14 Mars Note (#01)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/428/ISMO_Note_2014_01.htm

 

火星北半球の夏期の雲を伴う前線活動:2014年の観測から ISMO 2013/14 Mars Note (#02)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/429/ISMO_Note_2014_02.htm

 

火星北半球の夏期の雲を伴う前線活動:活動の分析 ISMO 2013/14 Mars Note (#05)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/432/ISMO_Note_2014_05.htm

 

ウトピアの盛夏の白雲活動 ISMO 2013/14 Mars Note (#10)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/437/ISMO_Note_2014_10.htm

 

 

観測一般

 

眞の古典的觀測を求めて CMO/ISMO #408

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/408/Mn_408.htm

 

40分毎観測のすすめ  CMO/ISMO #387

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/387/Mo_Mk_387.htm

 

位相角を使うこと(暦表の使い方)  CMO/ISMO #392

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/M_392.htm

 

火星観測のためのISMOの最重要提言 CMO/ISMO #420

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/420/CPl_420.htm

 

火星観測を暫し沈思黙考する CMO/ISMO #418

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/418/DPk_418.htm

 

ローカリズムかユニヴァーサリズムか  CMO/ISMO #417

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/417/Mn_417.htm

 

せいぜい機率5%  CMO/ISMO #412

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/412/Mn_412.htm

 

火星の動畫の本來あるべき姿 CMO/ISMO #401

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/401/Mn_401.htm

 

 

以前の接近時の記事

 

2003年の火星大接近について 

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/nihongo/2003_1.htm

 

2003年の火星大接近 天界記事

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/nihongo/2003_2.htm

 

2003年火星大接近観測レポート 目次ページ

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/2003repo/index03j.html

 

Forthcoming 2016 Mars (#02) 2016年の火星接近状況 1  CMO/ISMO #439

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/439/439_FC2016_02.htm

 

Forthcoming 2016 Mars (#06) 2016年の火星接近状況 2  CMO/ISMO #446

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/442/442_FC2016_06.htm

 


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