Forthcoming 2018 Mars (#03)

2018年大接近の火星 (II)

村上 昌己

CMO/ISMO #464 (25 December 2017)


 

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  前号に引き続き、最接近までの観測対象について記述する。

 


2) 接近前期 20184月〜20186(λ=152°Lsλ=203°Ls)

 

「西矩」も過ぎて視直径も8秒角を上回り眼視観測にも好期となって来ている。傾きは南半球側になっいて、この期間の518日に、λ=180°Lsと南半球の春分を迎えて、南半球黄雲発生時期となる。また、南極雲/冠の観測時期ともなる。下図には予想される南極冠の雪線を考慮して極冠の大きさを示している。


4月から6月までの火星面の様子

 

20184 (1 : λ=152°Ls, δ=8.5", φ=06°S, ι=41°) には「いて座」に移動して赤緯は23°S台にまで下がっていて、北半球の観測者からはますます条件が悪くなってしまう。2日には、M22 (球状星団)の北0.35°、同日に次いで、土星の南1.2°を通過する (δ=8.6", +0.3)。傾きも南向きとなり、南極雲/冠は南縁に認められる様になると思われる。ヘッラスは明るさを落としてゆく。南半球ではアルシア・モンスの山岳雲の活動があり、北半球の山岳雲の活動も続いている。位相角ιは中旬に最大となり夕方の欠けは大きい。赤道帯霧は弱いが夕縁に隠れてゆくシュルティス・マイヨルの色彩の変化にも注意したい。

 

20185 (1: λ=168°Ls, δ=11.1", φ=12°S, ι=40°) にも「いて座」にあって少し赤緯は回復する。λ=170°Lsころには極雲も晴れ上がり南極冠が捉えられることと思う。この時期の雪線緯度は58°S付近である。南半球の春分(λ=180°Ls)となるのは23日のことである。以降は南極冠の縮小に注意を払いたい。北半球の山岳雲の活動は弱まってゆく。λ=180°Ls過ぎには、前回2016年接近を上回る視直径で観測が出来るようになる。

 

20186 (1 : λ=185°Ls, δ=15.3", φ=15°S, ι=35°) には「やぎ座」に入っていて、いよいよ接近期となる。今回は下向きのループでの逆行となるため、赤緯は下がってゆく。28日に留となり逆行に移る。視直径が15"を越えるこの時期からは前回2016年接近より南半球の春分過ぎの観測が条件良くできる。南半球は黄雲発生の季節に入っている。南極冠は春分過ぎには常に太陽が当たるようになり、中央部の融解が進んで陰りが見られるようになる。

 

3) 大接近期 20187月〜20188(λ=203°Lsλ=241°Ls)

 

626日には視直径が20"を越えて、2003年以来15年ぶりの大接近期となってくる。今回の接近時は「やぎ座」でループを描くように動き、最接近時の赤緯は26°Sと南に低く北半球の観測者からの南中時の地平高度は低く残念である。南半球の観測者の条件が良い接近である。(5)

 


5図 接近時の星座間の動き

 

下図には、對衝・最接近を挟んでの火星面の様子を10日おきに示している。影は北極側を廻って朝方に移動する。今接近では位相角ιは、台に留まりそれ以下にはならない。

 

接近時の火星面の様子

 

 この期間は南半球大黄雲の発生時期にあたり、過去にはλ=183°Ls, 205°Ls, 214°Ls, 215°Ls, 224°Ls, 250°Ls, 260°Ls, 270°Ls, 274°Ls, 300°Ls に活動があった。2001年には季節の早い183°Lsでヘスペリアに発生して急速に拡がり全球的黄雲に発展したのは珍しいケースであった。2003年の大接近時には、215°Lsでデウカリオニス東部黄雲 (はじめはイヤピュギアの南部に発生し共鳴)232°Lsには、エオス−カプリ・コルヌ黄塵。315°Lsでは、クリュセからエオス周邊、アウロラエ・シヌスを半分覆い、アルギュレの北部まで擴がった大きな黄雲が発生した。黄雲現象は発生初期の観測が重要で、その前駆現象を捉えた発生前の観測は黄雲発生のメカニズムを考察する上でより価値があるものである。発生は朝方で日中には変化は少なく、翌日に条件が揃えば、付近に共鳴・再発生するものである。黄雲発生時には朝方の火星面を注視して追跡しなければならない。ωを揃えた40分インターバル連日観測が必要であることは言うまでもない。

 

201871 (λ=203°Ls, δ=20.9", φ=14°S, ι=21°) には「やぎ座」で逆行して接近中で「衝」を迎えるのは2705h GMTで「最接近」は3108 GMT (0.385AU)で最大視直径δ=24.31"に達する。しかし、赤緯は26°S台にまで下がってしまい。東京での南中高度は28°にしかならない。位相角は小さくなり欠けは少なくなっている。 

「衝」前後の位相角の小さな期間には、オリュムプス・モンスやエリシウム・モンスの衝効果のふるまいにも注意を払いたい。「衝」以降は欠けは朝方に移り夜明けのターミネーターが見えるようになる。

 この期間には、南極冠の内部には亀裂が見られるようになり、周辺部との明るさの違いなど視直径の大きな事もあり詳しく捉えられることと思う。周辺部の輝きや吹き出しも見られる。また、λ=200°Ls250°Lsには、アルギュレあたりが明るくなり、モンス・アルゲンテウス状態になることがある。

 

201881 (λ=222°Ls, δ=24.3", φ=11°S, ι=06°) は最接近翌日で、火星は「やぎ座」にある。その後も逆行を続けて、28日に「留」となり順行に戻る。

 南極冠は縮小が進みλ=230°Lsを過ぎる頃から南極冠の偏芯がはじまる。250°Ls頃には、ノゥォス・モンス (ミッチェル山 : 75°S320°W) が融け残り半島形に見えてくる様になる。視直径が大きな期間で極冠周辺部の輝きなど詳細が見えていて、南極冠の詳しい観測が可能である。南半球にあるアルシア・モンスは、このころにもまだ午後の山岳雲活動は見られるが、位相角が増加するしたがって、夕方の見える範囲は少なくなって行く。

--- 続く

 


 

この期間の観測対象関連論文

 

黄 雲 現 象

 

2001 Mars CMO Note (2) CMO#256 黄塵は早暁に作られ、昼は上昇のみ

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/01Note02j/index.htm

 

CMO 2005 Mars Note (7) CMO#324 奇蹟的だった十月18GMT

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO324.pdf

(Ser2-p0478 和文)

 

黄雲畫像のパッチワークを排す

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/399/Mn_399.htm

 

2001年南半球黄雲 2001年観測ノート、インデックスページ

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/01NoteIndex.htm

 

Forthcoming 2007/2008 Mars (7) 黄雲の季節來たる CMO #331

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_7j.htm

 

Forthcoming 2007/2008 Mars (9) 1956年の輝けるデウカリオン黄雲 CMO #333

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_9j.htm

 

 

 

南極冠とヘッラスに関して

 

秋冬の南極冠 CMO#353 p1021

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO353.pdf

 

2001 年の火星(6) 南極冠の生成と北半球の夏

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/coming2001/0106/06j.html

 

Great 2003 Mars Coming (7) 南極冠の内部の觀察 CMO#268

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomk/coming2003/07j.html

 

Forthcoming 2005 Mars (7) パルワ・デプレッシオの出現

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_7j.htm

 

2001年の火星 (7)   南極冠は何時偏芯するか 

http://www.mars.dti.ne.jp/~cmo/coming2001/0107/07j.html

 

Forthcoming 2005 Mars (11) 經緯度圖で南極冠の偏芯を見る(λ=235°Ls, 250°Ls, 270°Ls)

 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_11.htm

 

CMO 2005 Mars Note (10) ノウス・モンスの殘照 CMO #327

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO327.pdf

 

たかがヘッラス、されどヘッラス(1995年のヘッラスはいつ明るくなったか)

1994/1995 Mars Note (10)  CMO #174 ( 25 April 1996 )

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/95Note10j.htm

 

ヘッラス盆地の冬の様相 ISMO 2011/2012 Mars Note #13

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/410/ISMO_Note_2011_13.htm

 

2014年の冬期のヘッラス ISMO 2013/14 Mars Note (#08)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/435/ISMO_Note_2014_08.htm

 

 

 

山岳雲に関して

 

北半球の晩春のタルシス山岳雲の傾向 ISMO 2011/2012 Mars Note #08

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/406/ISMO_Note_2011_08.htm

 

オリュムプス・モンス、タルシス山系の白雲の動向 ISMO 2013/14 Mars Note (#06)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/433/ISMO_Note_2014_06.htm

 

2014年でのエリュシウム・モンス雲の動向 ISMO 2013/14 Mars Note (#07)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/434/ISMO_Note_2014_07.htm

 

 

北極冠と周辺現象に関して

 

北半球初夏のプレ北極域渦状白雲 ISMO 2011/2012 Mars Note #15

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/412/ISMO_Note_2011_15.htm

 

1999年のバルチアのサイクロンは2014年に再現するか? Forthcoming 13/14 Mars (5)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/416/Mn_416.htm

 

火星北半球の夏期の雲を伴う前線活動:概説 ISMO 2013/14 Mars Note (#01)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/428/ISMO_Note_2014_01.htm

 

火星北半球の夏期の雲を伴う前線活動:2014年の観測から ISMO 2013/14 Mars Note (#02)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/429/ISMO_Note_2014_02.htm

 

火星北半球の夏期の雲を伴う前線活動:活動の分析 ISMO 2013/14 Mars Note (#05)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/432/ISMO_Note_2014_05.htm

 

ウトピアの盛夏の白雲活動 ISMO 2013/14 Mars Note (#10)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/437/ISMO_Note_2014_10.htm

 

ω=170°Wω=180°Wの窓から見た λ=054°Ls(2012) λ=141°Ls(2014)

に観測された北極冠形状の推移 ISMO 2013/14 Mars Note (#04)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/431/ISMO_Note_2014_04.htm

 

 

 

オリュムプス・モンスの衝効果

 

2009/2010 CMO『火星通信』火星觀測ノート (6)

何故オリュムプス・モンスは2010年の衝には輝かなかったか。CMO #378

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/378/2009_2010Note(6).htm

 

ニクス・オリュムピカについての誤解 CMO/ISMO #389

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/389/Mn_389.htm

 

200511月に観測された輝くオリュムプス山への“フラッシュ”バック CMO/ISMO #397

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/CPl_397.htm

 

 

 

その他

 

モンス・アルゲンテウス (白銀の山) CMO #266

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/266Note12/indexj.html

 

 

 

観測一般

 

眞の古典的觀測を求めて CMO/ISMO #408

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/408/Mn_408.htm

 

40分毎観測のすすめ  CMO/ISMO #387

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/387/Mo_Mk_387.htm

 

40分毎觀測の實際 CMO/ISMO #385  2009/2010 CMO火星觀測ノート (13)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/385/2009_2010Note_13.htm

 

位相角を使うこと(暦表の使い方)  CMO/ISMO #392

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/M_392.htm

 

火星観測のためのISMOの最重要提言 CMO/ISMO #420

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/420/CPl_420.htm

 

火星観測を暫し沈思黙考する CMO/ISMO #418

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/418/DPk_418.htm

 

ローカリズムかユニヴァーサリズムか  CMO/ISMO #417

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/417/Mn_417.htm

 

せいぜい機率5%  CMO/ISMO #412

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/412/Mn_412.htm

 

火星の動畫の本來あるべき姿 CMO/ISMO #401

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/401/Mn_401.htm

 

 

以前の接近時の記事

 

2003年の火星大接近について 

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/nihongo/2003_1.htm

 

2003年の火星大接近 天界記事

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/nihongo/2003_2.htm

 

2003年火星大接近観測レポート 目次ページ

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/2003repo/index03j.html

 

Forthcoming 2016 Mars (#02) 2016年の火星接近状況 1  CMO/ISMO #439

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/439/439_FC2016_02.htm

 

Forthcoming 2016 Mars (#06) 2016年の火星接近状況 2  CMO/ISMO #446

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/442/442_FC2016_06.htm

 


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